ようやく開花した「琴勝峰」 ホープと呼ばれながらもケガで低迷…「刺激になったのは間違いない」と明かした存在とは【令和の名力士たち】

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実弟・琴栄峰の新入幕で奮起

 そんな琴勝峰が、ふたたび存在感を現したのが、23年初場所のこと。中盤戦から、大関・貴景勝(当時、現・湊川親方)と優勝戦線を引っ張った。そして、千秋楽結びの一番で、3敗同士で貴景勝と激突。「勝ったほうが優勝」という大一番でこそ敗れてしまったものの、11勝4敗で初めての敢闘賞を手にしたのだ。

 3度目の優勝を果たした貴景勝は、相撲っぷりこそ違うものの、埼玉栄高の3年先輩。時にアドバイスをもらうなど、頼もしい先輩の一人である。

「最後まで戦えたのはいい経験になりましたが、自分は挑戦者。まだ実力が足りないので、もっと鍛えて、もっと強くなりたい」

 と、前を向いた琴勝峰。

 ところが、その後も琴勝峰は負傷を繰り返し、十両に下がる苦杯を舐めた。一方、4歳年下の弟・太希が、埼玉栄高を経て、佐渡ヶ嶽部屋に入門。24年九州場所の新十両昇進を機に、兄と同じだった「琴手計」から「琴栄峰」に改名し、今年名古屋場所で新入幕を果たしたことが、琴勝峰にとって大きな励みになった。

「弟の存在が刺激になったのは、間違いないですね。番付も近い(名古屋場所では、琴勝峰が前頭15枚目、琴栄峰が前頭17枚目)ので、土俵入りの時の距離も近かったですし……」

秋場所は「まずはケガをしないこと」

 初優勝後の8月の夏巡業では、観客の声援も以前とは違っていたという。

「巡業は直接、ファンの方たちと触れ合える貴重な機会ですからね。多くの人たちに『おめでとうございます!』と言っていただき、土俵上での拍手もたくさんいただき、『本当に優勝したんだ』と実感した巡業でもありました」

 秋場所は前頭上位に番付を戻し、横綱大関陣と総当たりすることになる。

「まずはケガをしないこと。まだ三役に上がった経験もありませんし、もちろんその上(大関)を狙うという夢もあります」

 現役ボディビルダーでもある父・学さんの(人気漫画の)亀仙人風の風貌も話題になっているが、

「父はキャラ強めですから(笑)」

 と苦笑い。

 決して口数は多くない。「静かなる男」が初優勝を機に大化けすることを期待したい。

琴勝峰吉成(ことしょうほう・よしなり)
本名、手計富士紀。平成11年8月26日、千葉県柏市出身。平成29年九州場所、初土俵。令和元年九州場所、新十両昇進。令和2年名古屋場所、新入幕。5年初場所、敢闘賞受賞。7年名古屋場所、初優勝。殊勲賞、敢闘賞受賞。幕内優勝1回、殊勲賞1回、敢闘賞2回。190センチ、167キロ。得意は、右四つ、寄り、突っ張り。

武田葉月
ノンフィクションライター。山形県山形市出身、清泉女子大学文学部卒業。出版社勤務を経て、現職へ。大相撲、アマチュア相撲、世界相撲など、おもに相撲の世界を中心に取材、執筆中。著書に、『横綱』『ドルジ 横綱朝青龍の素顔』(以上、講談社)、『インタビュー ザ・大関』『寺尾常史』『大相撲 想い出の名力士』(以上、双葉社)などがある。

デイリー新潮編集部

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