THE ALFEE高見沢の「エンジェルギター」を手掛ける「日本が誇るギターメーカー」…最大のポリシーは「なんでもやってみる」

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依頼があれば何でも作る

 ESPが高見沢氏のエンジェルギターのような複雑な変形ギターを製作できるのは、ひとえにその社風によって築かれた技術であると、上田氏が言う。

「ミュージシャンの要望は際限がありません。だからこそ、当社はなんでもやる、なんでもやってみるというのがポリシー。こんなギターができないかなというミュージシャンの夢を必ず実現したいという思いで、50年続けていると言っていいかもしれません。そういう意味では、ミュージシャンが育てたギターメーカーだと思うんですよ。

 オーダーメイドでギターを作る工房は、当社よりも先に、まったくなかったわけではありません。ただ、既存の基本的なボディやパーツのなかから選び、組み立てるスタイルがほとんどで、図面を引くところから始めたのは当社が初めてかもしれません。ましてや、個人規模ではなく、ある程度の量産を行っているメーカーとしては初ではないでしょうか」

 上田氏によると、ESPは社内にギター製造を一貫して行える体制を有しているという。木材の削り出しから、塗装、組み立て、さらには複雑な彫刻を施せる“仙人”のような職人までいる。場合によってはピックアップなどのパーツも、ワンオフ(特注品)で製造できる体制がある。こうしたギター工房は世界的にも珍しい。

「当社では奇抜なギターから伝統的なギターまで制作していますが、職人は基本的にはどちらも製作します。それは、なんでもやることが前提にあるためですし、そもそも両者の間に垣根はありません。トラディショナルなものに対する尊敬の念も強いですし、そういうものも作れるからこそ、尖ったものも作れるのだと思います」(上田氏)

ほとんどの工程が手作業

 工房の見学で最初に案内されたのは、木材を保管する部屋である。言うまでもなく、木材はギターの音色、そしてルックスを決める要といえる。ESPには入手困難な希少なものが、湿度が管理された部屋に大量にストックされている。なかには、有名ミュージシャンが将来のギター製作のためにストックを依頼している木材まであった。

 昨今は希少な木材が入手しづらくなったことで、いわゆる“虎杢”や“キルト”と呼ばれる美しい木目が浮き出た木材はそれだけで高価であり、世界中で争奪戦になっていると聞く。しかし、そういった木材をESPは豊富にストックしている。メイプル、マホガニー、スワンプアッシュなど、まるで木材の博物館のようである。

 部屋の隅に目をやると、加工されたばかりのネックが置かれていた。一つとして同じ形状のものがないが、これらはほとんどが顧客からの注文品なのだという。「木材は気温や湿度の変化に敏感で、加工した直後は伸縮してしまうため、一定期間寝かせておくのです」と、上田氏。

 ギターの見た目を決めるのは、ボディの形状である。機械で大まかな形を削り出すことはできるが、シンプルなようでいて極めて複雑な形状だ。なめらかな曲面があったと思えば、フラットな箇所もあり、少しでも歪みや凹凸があればステージ上で目立ってしまうのだ。美しい形に成型していくためには、熟練の職人技が必要になるのである。

 塗装もギターの見た目を左右する重要なポイントだ。ESPには最新技術を用いた塗装から、ヴィンテージギターなどに使われるニトロセルロースラッカーまで、あらゆる塗装を行える体制がある。そして、塗装を行ったギターもすぐに組み立てとはならない。時間をかけて乾燥させ、塗料を本体になじませてから行うのである。

「ギター作りは基本的に手仕事が多いですね。加工機械も進化しているのですが、楽器の場合は相手が天然素材なので、精度を高く作るためには人の手が必要ですし、乾燥などの工程にも時間がかかる。機械化ができない部分に非効率なほど手間をかけているのが、弊社のギター作りの流儀だと思っています」(上田氏)

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