紅白でも大盛り上がり! 国民的バンド、サザンの「勝手にシンドバッド」は何が凄いのか

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 昨年大晦日に放送された「第69回 NHK紅白歌合戦」。平成最後の紅白の締めくくりとして登場したのは、昨年でデビュー40周年を迎えた国民的ロックバンド、サザンオールスターズだった。1990年発表の「希望の轍」とデビュー曲「勝手にシンドバッド」の2曲を披露し、会場を大いに盛り上げた。

 40年間一線で活躍し続けるサザン。デビュー曲の「勝手にシンドバッド」をリアルタイムで聴いた世代にとっては、この曲が「日本のロックを変えた」という評も、決して過大な表現ではないだろう。
 が、一方で洋楽ロックよりもJ-POPの方がはるかに巨大市場となった状況しか知らない世代にとっては、何がそんなに凄かったのか、衝撃的だったのか、ピンと来ないかもしれない。

 音楽評論家のスージー鈴木氏は、著書『サザンオールスターズ 1978-1985』で、「勝手にシンドバッド」の魅力を熱く語っている。以下、同書をもとにその革新性を見てみよう(引用はすべて同書より)。
 スージー氏がまず挙げるのは、「日本語のロック」を確立させた、という点である。

「今となっては信じられないが、70年代の半ばまで、『日本語はロックに乗らない』と、真面目に考えられていたのである。そんなつまらない固定観念が、『勝手にシンドバッド』1曲によって、ほぼ完全に抹殺された。『日本人が日本語でロックを歌う』という、今となっては至極当たり前な文化を、私たちは享受できるようになった。
 例えば、『早口ボーカル』『巻き舌ボーカル』と言われるほど、日本語を、口腔内を自在に操って発声することが普通になった」

 ここで、ちょっと音楽通ならば「いや、はっぴいえんどがあったじゃないか」などとツッコミを入れるかもしれない。たしかにサザン以前にも「日本語ロック」は存在していたし、素晴らしい作品も生まれてはいた。
 しかし、サザンほどの商業的な成功はおさめていない。「勝手にシンドバッド」はデビュー曲にして、オリコン最高位3位、50万枚というセールスだったのだ。

ダミ声のルーツは

 それでは具体的にはどこが衝撃的だったのか。スージー氏が最大の要素として指摘するのは、桑田佳祐のボーカルスタイルだ。
 まず「発声」。当時は「しゃがれ声」「ダミ声」とも形容された。一般的にはリトル・フィートのボーカル、ローウェル・ジョージやエリック・クラプトンの影響が指摘されるのだが、スージー氏は、日本人からの影響も見逃せない、という。影響を与えたと思われるボーカリストとして、スージー氏が名を上げるのは、大瀧詠一、宇崎竜童、柳ジョージだ。
 柳ジョージは、桑田よりもさらにしゃがれた声の持ち主だったが、スージー氏はこんなエピソードを披露する。

「ゴダイゴのミッキー吉野氏から私が直接聞いた話。当時ある歌番組で、ゴダイゴの楽屋を訪ねた桑田から、『柳ジョージさんを紹介してほしい』とお願いされたという(吉野と柳は、伝説のバンド=ザ・ゴールデン・カップスの出身)」

 また、後に「吉田拓郎の唄」を捧げることになる吉田拓郎からの影響も見られる、とスージー氏は分析している。

ショーケンと矢沢

「発声」とは別の「発音」も、革新的だった。

 子音を英語的に強調する、つまり「カ」を「クァ」、「タ」を「ツァ」と発音する桑田流は、当時としては珍しい特徴だった。また、母音も「ア・イ・ウ・エ・オ」と発音するのではなく、「アとエの中間」のような音を英語的に発音することも。

 この源流としては、まずザ・テンプターズの萩原健一が挙げられるという。
「桑田へのインタビュー本『ロックの子』(講談社)では、子供のころに萩原の歌を研究していたとの発言があり、そこに添えられた、ザ・テンプターズの『エメラルドの伝説』の、桑田本人による物まね発音の表記が、実に示唆的である――『♪むィずうみぬィ~きみはむィをぬァげッつあ~』(=湖に君は身を投げた)」
 
 この発音面ではショーケン以外に大瀧詠一の影響も見られるが、それ以上にキャロル時代の矢沢永吉の影響が見逃せない、という。
「『ロックの子』で桑田は、キャロルの歌を『鼻についちゃったんだよね』とあからさまに否定しているが、否定しているということは意識していたということだ。
 そして桑田は何と、アマチュア時代にキャロルのコピーを披露している。
『勝手にシンドバッド』では、ラ行で舌を巻いているのだが、このあたり、ひどく『矢沢的』である」

 このように見たうえでスージー氏はこう語る。
「(桑田のボーカルは)突然変異的に見えながら、実はここに挙げたような、古今東西の様々なボーカルスタイルをガラガラポンした結果として生まれた、あの声、あの歌い方。それこそが、『革命』を推進するエンジンだったのだ」

 もちろん「勝手にシンドバッド」の新しさはボーカルスタイルだけではない。スージー氏は同書で、「桑田語とでも言うべき歌詞」「リズムアレンジ」「独特のベースライン」等、マニアならではの視点で熱く語っている。

 昭和、平成と時代を超えて愛された名曲「勝手にシンドバッド」。新元号になっても人々に愛され続けるに違いない。

デイリー新潮編集部

2019年1月10日掲載

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