「夏は降圧剤を減らすチャンス」「理想の血圧は…」 高齢者と血圧の「新常識」 最新研究を紹介

ドクター新潮 ライフ

  • ブックマーク

立ちくらみ、倦怠感が

 いまや高血圧に起因する死亡者数は年間約17万人に上ると推計。治療の重要性については広く知られているところだが、降圧剤の服用法に悩んでいる患者は少なくない。

 都内に住む植木信二さん(66)=仮名=もその一人だ。

「最高血圧が190と診断されたのは、6年前の健康診断時でした。当時、勤務先での配置転換から慣れない業務を担当することになり、そんな仕事上のストレスが原因だったのかもしれません。慌てて病院に行くと、医師から2種類の降圧剤を処方されました」

 服用を続けるうち、上の血圧は120前後にまで下がったものの、日によって下がり過ぎてしまう事態に直面したという。

「時折、上の血圧値が100近くまで下がり、立ちくらみや倦怠感に襲われるようになりました。医師に相談したところ、降圧剤を1種類に減らし、毎朝1錠を飲む形に改めた。おかげで副作用に悩まされる機会は減りましたが、毎日同じ量を飲んでいるのに、薬の効き方が違う日が今でもあるのです。万が一、風呂場で立ちくらみを起こし、転倒でもしようものなら……と考えると不安で仕方ありません」(同)

 東都クリニック高血圧専門外来の桑島巖医師が言う。

「立ちくらみやフラつきを覚えるのは、薬が多過ぎるか、強過ぎるかのどちらかです。夏場は暑さで血管が開き、自然と血圧が下がります。降圧剤を複数錠飲んでいる人は、このタイミングで薬を減らすことも選択肢の一つ。また1錠しか飲んでいない状態で上の血圧が120以下をキープできているのなら、夏の間、薬をやめてみることを考えてもいいでしょう」

 60歳以上であれば、降圧剤の中でも副作用が少ない、血管拡張作用のあるカルシウム拮抗薬が推奨されるという。

降圧剤だけに頼らない

 桑島氏が続ける。

「酸素などを体中に送り届ける血管は生命のライフラインですが、加齢とともに硬くなり、脆くなるのは避けられない。血管の損傷を抑えるためにも、高齢者ほど血圧を下げた方がいいというのが現在の常識です。かつて目標値は“年齢プラス90”が妥当とされましたが、それには科学的根拠がないことも明らかになっています。事実、数千人規模での臨床データから、血圧が低い高齢者ほど脳の血管の状態も良いことが分かっています」

 変わりゆく「高齢者と血圧」の関係について、前出の苅尾氏が補足する。

「上130未満/下80未満を目指して、血圧をゆっくりと下げていくことが重要であるとともに、低血圧の症状が出ないかを見極める必要があります。代表的な症状である目まいや体のだるさは転倒リスクを高めます。低血圧症状がもっとも出やすいのは食後で、高齢者の3人に1人が“食後低血圧”に陥っているとのデータもある。中には食前と比べて、食後に血圧が20ミリHg下がった事例も報告されています」

 日中に症状が出た際は、そのタイミングで家庭血圧を測定して、レベル(値)が低ければ、朝に飲む薬の量を減らすなどの対策を考えた方がいいかもしれないという。

 さらに新小山市民病院前理事長で、医師の島田和幸氏は「薬に頼らない」降圧法を説く。

「降圧剤の服用量は少ないに越したことはありません。そのためには普段の食生活において塩分摂取量を抑え、体重をコントロールする必要があります。実際、塩分を控え、体重を2~3キロ落としただけで血圧が下がり、降圧剤を卒業した患者は珍しくありません。降圧剤だけに頼ると、どうしても副作用など新たな問題を抱えるケースが絶えない。一方、生活習慣全般を見直すことで、血圧を無理なく自然に下げることが可能となります」

次ページ:理想の最大血圧値は?

前へ 1 2 3 4 次へ

[3/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。