「夏は降圧剤を減らすチャンス」「理想の血圧は…」 高齢者と血圧の「新常識」 最新研究を紹介

ドクター新潮 ライフ

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 日本高血圧学会が6年ぶりに高血圧の治療指針を改訂した。75歳以上の降圧目標をこれまでより10ミリHg引き下げたことで、現在4300万人いる患者数も一気に増える。もっとも、その背景にある最新の研究データをひもとくと、新たな「血圧の常識」が見えてくる。

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「今回、治療指針を改訂したのには明確な理由があります。近年、海外では大規模な臨床試験が立て続けに行われ、関連研究も盛んです。それら各データをメタ解析(複数の研究結果を統合し、分析すること)した結果、血圧を下げることで“75歳以上においても脳卒中や心筋梗塞、心不全などの発症を抑える予防効果が高い”と明らかになったのです」

 こう話すのは日本高血圧学会理事長で、自治医科大学教授の苅尾七臣氏(63)だ。

 同学会が7月25日に発表した高血圧の新たな治療指針が話題となっている。75歳以上の治療目標値をこれまでより10ミリHg引き下げ、「上(収縮期)130ミリHg未満/下(拡張期)80ミリHg未満」に変更したのだ。

決め手となった研究

 同学会元理事長で、大阪ろうさい病院総長の樂木宏実氏(67)が見直しに至った背景を説明する。

「今回改訂されたのは、臨床現場で治療のタイミングや降圧剤の処方量などを判断する際に目安となる目標値であって、診断基準とは異なります。2019年の前回ガイドライン策定時には、75歳以上の目標値を“引き下げたほうがいい”と裏付ける研究データが世界でまだ一つしかなく、検証には不十分な状況でした。そのため〈上140未満/下90未満〉にとどめた経緯があります」

 しかし策定以降、研究事例数は増え、引き下げ議論も加速。中でも、決め手となった臨床研究が三つあるという。

 一つは、19年時にも参照された米国立衛生研究所による「SPRINT(スプリント)」と呼ばれる大規模臨床試験だ。

 前出の苅尾氏が言う。

「対象となったのは、75歳以上の患者28%を含む、50歳以上の高血圧患者約9400人です。彼らを降圧目標140未満と120未満のグループに分けて比較したところ、120未満群では心筋梗塞などの心血管疾患が25%、心不全は38%も発症リスクが低下した。また総死亡率も27%抑えられるという結果が出ました」

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