「夏は降圧剤を減らすチャンス」「理想の血圧は…」 高齢者と血圧の「新常識」 最新研究を紹介
血圧を下げるメリットは75歳以上であっても大きい
さらに21年、苅尾氏も参画したSTEP研究と呼ばれる臨床試験データが、米国の医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載された。
「中国で行われた60~80歳の高血圧患者約8500人を対象としたもので、患者が同じアジア人ということもあり、日本にとって参考になる試験といえます。患者群を血圧目標〈上130-150〉と〈上110-130〉の2グループに分け、高血圧に起因する合併症の予防効果を4年にわたり観察しました。すると〈130-150〉の心血管疾患発症率が4.6%だったのに対し、〈110-130〉では3.5%と有意差が確認できたのです」(苅尾氏)
24年には、同じく中国の研究チームによる、心血管疾患リスクの高い2型糖尿病患者約1万2800人(50歳以上)を5年間追跡調査(BPROAD研究)した結果が公表された。
先行する二つの臨床試験に倣うように、降圧目標「上120未満」のグループは「上140未満」のグループと比べて、脳卒中や心筋梗塞のリスクが21%低下したのだ。
「三つの研究は“血圧を下げるメリットは75歳以上であっても大きい”ことを科学的なエビデンスでもって示しています。他にも、84歳以下の対象者の血圧を5ミリHg下げると、血圧水準にかかわらず、健康に好影響を与えるとの臨床試験も存在します」(前出の樂木氏)
降圧剤の功罪
一方で、研究データが増えるとともに、血圧の基準値を年齢で区切ることに大きな意味はないことも明らかに。新指針でも引き下げによって、75歳以上の目標値は75歳未満の数値と統一されることになった。
この動きは「世界の潮流に沿うものだ」と話すのは、都内で高齢者医療などに携わる新潟大学名誉教授の岡田正彦氏である。
「欧州心臓病学会(ESC)が昨年発表したガイドラインでは、治療目標は年齢に関係なく、〈上120-129/下70-79〉と定めています。また米国心臓病学会・米国心臓協会(ACC/AHA)のガイドラインでも、持病のない健康な人の目標値は〈上130未満/下80未満〉に設定されています」
“世界標準”に近づいたとはいえ、懸念される点も浮上している。
「目標値が引き下げられたということは、それだけ高血圧の治療対象者が増えることを意味します。そうなれば、必然的に降圧剤の処方量が増えることにもつながり、注意が必要です。降圧剤を飲み続けることで認知症リスクが上昇することを示す臨床研究が存在するなど、高齢者における降圧剤の服用には一定の慎重さが求められます」(同)
現在、国内には約4300万人の高血圧患者がいるとされ、仮に高血圧の基準値を10ミリHg下げた場合、患者数は約20%増えるとの試算もある。
高血圧が進んで動脈硬化になると、狭心症や心不全、脳梗塞、脳出血、認知症などのリスクが高まる点については、厚生労働省も健康情報サイトで警鐘を鳴らす。
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