“自治体病院9割赤字”で“関東近郊”の「小児科医・産婦人科医」不足が危険水準に 「このままでは病院がなくなるのでは」という声も

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統廃合のあおりを受けるのは地方よりも都市部?

 自治体病院を減らすという議論になると地方の地域医療が崩壊するという視点で見られがちです。しかし、地方以上に自治体病院の統廃合のあおりを受けるのは大都市やその近郊だと考えています。

 例えば、小児科や産婦人科です。小児科は成人医療に比べてケアする項目が多く、産科は分娩などに際して対応が長時間にわたることもあり、医師の負担が大きい割に収入が低い採算性の悪い分野と言われます。それゆえに小児科専門病院や周産期母子医療センターなどは民間病院ではなく自治体病院が担うケースが多い。

 ここで各都道府県における小児科や産婦人科医の数を見てみましょう。厚労省発表「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況(2022)」によると、15歳未満10万人当たりの小児科専門医の数は、鳥取県が148.5人と最も多く、千葉県が66.1人と最も少ない。また、15歳~49歳女性10万人当たりの産婦人科専門医の数は、徳島県が66.7人と最も多く、埼玉県が32.4人と最も少ない。データから、千葉県や埼玉県などの大都市近郊における小児科医や産婦人科医の少なさが分かります。これらの地域は高度成長期以降、急速にベッドタウン化が進み、若い世代が流入しましたが、大学の医学部をはじめ、医療インフラの整備が人口増に追いつかなかったのです。

 つまり、小児科や産婦人科などの不採算になりがちな分野を支えている自治体病院が赤字拡大によって無くなれば、そもそもこうした部門を担う医師の少ない大都市近郊こそ今後危機的な状況に陥りかねないということです。

 これは新型コロナや災害などの突発的な事例にも当てはまります。先ほど述べた通り、感染症指定医療機関や災害拠点病院は、その多くを自治体病院が担っていますが、東京都などの大都市ほど自治体病院率が低く、民間病院率が高い。例えば、2021年時点で、各都道府県内の全病床数における公立病院の病床数の割合は、山形県などでは40%を超える一方、東京都では8.3%になっています。

 今後、災害やパンデミックで大量の病床が必要になった際、感染症医療や災害医療の中心となる自治体病院が縮小して困るのは地方よりも東京都などの大都市だといえます。

 自治体病院の赤字問題はどうしても医療関係者たちの中での議論になりがちです。しかし、赤字化した自治体病院が潰れないように支えるのは紛れもなく公金です。本質的に自治体病院の経営状況や赤字問題は、医療関係者のみならず医療費を捻出する国民全員が議論に参加して合意形成をしていくべきことなのではないでしょうか。

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