「ママの言うことさえ聞いていれば、幸せになれるから」 3歳から母に洗脳された少年が、57歳の今も続ける「ひきこもり」人生【毒母に人生を破壊された息子たち】

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ママの言うことさえ聞いていれば

 3歳の頃、母親に手を繋がれて歯医者に行く途中、大学のグランドを通りかかった。

「あなたね、おっきくなったら、パパみたいな立派な大学に行くのよ。そしたらね、ママみたいな素敵な女性と出会って、そうしたら、うちみたいな幸せな家庭が築けるんだから。大学に入ったら、4年間、自由があるのよ」

 衝撃だった。3歳児にとって時間の概念はなかったけれど、4年間の自由という、夢のような時間があることだけは、はっきりとわかった。

「あなたは何も知らないし、何もできないから、ママの言うことを聞くと、大学に入れるから。そうやって大学に入ったら、あなたの人生が始まるの」

 その言葉はストレートに、3歳児の胸に入ってきた。

「ママの言うことさえ聞いていれば、僕のようなサナギでも蝶になるんだ。それが、約束されているって。完全に、洗脳ですね。だけど、母親は意思判断ができない人で、ママの言葉なんて実体のないものだったから、余計に僕は混乱した。ママが空っぽだったから」

 命ぜられるまま懸命に、“幸せ家族”の道化師を演じた。道化役なんて嫌だと言ってもきっとよかったのに、どうしてもできなかった。

【後編】では、高校卒業後、山本さんが辿った「ひきこもり」の道と、父から送られた意外すぎる一言、そしてその後の母親との関係の変化について詳述する。

黒川祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション・ライター。福島県生まれ。東京女子大学卒業後、専門紙記者、タウン誌記者を経て独立。家族や子ども、教育を主たるテーマに取材を続ける。著書『誕生日を知らない女の子』で開高健ノンフィクション賞を受賞。他に『PTA不要論』『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』『シングルマザー、その後』など。最新刊に『母と娘。それでも生きることにした』。雑誌記事も多数。

デイリー新潮編集部

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