「ママの言うことさえ聞いていれば、幸せになれるから」 3歳から母に洗脳された少年が、57歳の今も続ける「ひきこもり」人生【毒母に人生を破壊された息子たち】

国内 社会

  • ブックマーク

眼差しが脳の中に侵入

 幼い頃から、常に母親の監視下にあった。多くの幼な子は、母親など養育者の眼差しに守られて生きるものだ。その笑顔や言葉から生きることへの安心感、肯定感が育まれ、自分の世界が広がっていく。それが成長であり、そうした営みを通じて親への「愛着」が生まれる。「愛着」とは子どもにとっての生きる基盤であり、「安全基地」にも喩えられる。しかし、山本さんが得た母親の眼差しは、真逆のものだった。

「母親は僕が何をしているのか、どういう表情をしているのか、じーっと観察していました。それは、支配するための眼差し。だから僕は、ママに誤解されないよう、悪い僕だと思われないように振る舞わないといけなくて、その時のママの気持ちに応えられるよう、ずっとエネルギーを使っていた。常に、間違っちゃいけないということだけ。でも、そこに正解なんてないんです」

 母親が幼い山本さんの目を覗いて、こう言い聞かせるのも日常だった。

「あんたね、ママに隠し事をしても、全部、わかるんだからね。嘘をついても、ママには絶対わかるんだからね」

 ぐりぐりと目を覗く母親の眼差しは、脳の中にまで侵入してくるものだった。

 幼稚園で、『もりのへなそうる』という絵本の読み聞かせがあった。

「お母さんが冒険に出る息子たちに、お昼ごはんを作ってくれるの。サンドイッチで、イチゴをスライスしたものに蜂蜜をたっぷりかけたもの。“そんなの、あるのー!”って、びっくりして。でも、なんで僕、聞いただけで、イチゴのサンドイッチのイメージが湧くんだろう。テレビでもないのにって、すごく不思議で、衝撃を受けたんです。“わーっ、すごい”って喜んだ僕があって、そう思った瞬間、“ああ、これ、ママにバレる。僕は、喜んではいけない”って、全てを打ち消しました。普段から母親に覗かれているわけだから、無意識に、想像することを避けていたんです」

監視カメラを埋め込まれた

 母親の支配は心の中にも侵入し、想像する行為を自ら禁ずるほど、山本さんを羽交締めにしていた。

「僕はずっと覗かれて、監視カメラを埋め込まれたんです。インナーマザーの強烈版が僕の中に入り込んで、心の中に秘密を持ってもいいものなのに、その発想すら、僕にはなかった」

 母親によく言われた言葉を、山本さんはいくつか挙げた。「いやらしい」、「かっこつけちゃって」、「気を引こうとしている」、「何もできないくせに」、「偉そうに」、「調子に乗っちゃって」、「わざとらしい」……。そして決定的なのは、「パパに言うからね」。

 山本さんが何かしようとするたび、罪悪感を持たせるよう、蔑みの言葉が浴びせられた。

「ピアノの音に浸っていると、“調子に乗っちゃって”。“美味しい”というと、“わざとらしい”。母親に甘えると、“いやらしい”。だから、何もできなくなっちゃう。“いやらしい”には、強烈な殺傷能力があった」

 幼稚園の聴力検査で、音が聞こえたら手を上げるように言われても、山本さんには「また、嘘ついて」という母親の言葉が心に深く刻まれている以上、手を上げることすらできなかった。

次ページ:ママの言うことさえ聞いていれば

前へ 1 2 3 4 次へ

[3/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。