「男性同僚にボディタッチ&待ち伏せ」 元同僚が振り返る50歳容疑者の“キモすぎる奇行”  なぜアディーレ法律事務所殺人事件では「同情論」が拡散されたのか

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素顔を見たのは、飲み物を飲む時くらい

 そうして近づいては来るものの、異様なほどの秘密主義だったという。

「人に対しては『休みは何しているの?』とか『家族はいるの?』とよく聞いてくるくせに、自分のことを聞かれると全く答えないのです。会話をさっさと切り上げて自席に戻ってしまう」

 秘密主義は徹底していて“素顔”まで隠し通していた。

「年中、マスクをしていました。素顔を見たのは、飲み物を飲むタイミングくらいです。薄い頭髪を気にして、デスクではいつも前髪をいじっていてトイレでは櫛を入れていました」

 問題だったのは人から気持ち悪がられる行動を取るだけでなく、仕事も適当だったところだ。

「自分さえ良ければいいという考え方のタイプで、他の課の応援仕事は全くやろうとしない。一度、女性事務員が涙目になって『本当に困るんです』と本人に直接訴えたことがありましたが、言われた当人は他人事のように『あー、はいはい』と返していた。そんな様子もあって上司は完全にあきらめていて、彼が仕事をやらない皺寄せは他の事務員たちに行っていました。にもかかわらず、『職場全体で工夫すれば夏休みが取れるはずなのに』などと文句だけは多いのです」

人望があって周囲から慕われていた芳野さん

 つまり、渡辺容疑者の方こそが職場で恨まれる存在だったいうのだ。一方、殺害された芳野さんの評判はどうだったかというと、

「まだ30代半ばでしたが勤務経験が豊富で、人望もあり、課長の右腕といった存在でした。会社のルールに精通しており、他の課からもよく事務員が相談に訪れていましたが、いつも親身になって対応していました」

 まだ小さな子供がいたという。

「お子さんの事情で遅刻や早退をすることもありましたが、そういうときは必ず埋め合わせをしてから帰宅する責任感の強いタイプ。おそらくですが、渡辺容疑者は誰からも慕われている芳野さんを一方的に妬んで、犯行に及んだのではないでしょうか」

 アディーレ法律事務所は下記のような声明を出している。

〈現在、一部のインターネット情報やSNS投稿において、あたかも被害者の方に原因の一端があるかのような、事実に反する憶測が流布されております。現時点で把握している限り、部署および業務内容、指示命令系統も別であり、当事者同士が業務上深く関わっていた経緯はなく、被害者の方に何ら落ち度も、責められるべき点も一切ないことを確認しております。

 被害者に関する憶測による根拠のない情報発信は、故人の尊厳を深く傷つけ、ご遺族の心を二重に苦しめる、極めて痛ましい「二次被害」に他なりません。皆様におかれましては、どうか故人の尊厳とご遺族の心情にご配慮いただき、被害者に関するこのような情報の投稿・拡散をお控えいただくとともに、既に投稿されたものにつきましては、削除対応をいただけますよう、強くお願い申し上げます。当事務所は、引き続き捜査に全面的に協力し、真相の解明と再発防止に全力を尽くしてまいります〉

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 アディーレが声明を出した通り、この事件では発生直後から「被害者にも落ち度があった」という間違った情報と渡辺容疑者に同情する声がネット上で広まった。その根拠となったのは、渡辺容疑者が警察の取り調べで語った「職場で嫌なことがあり以前から芳野さんに恨みを持っていた。我慢の限界がきて刺した。痛みを与えたかった」という供述だった。

 この一行足らずの供述から、被害者が余程のことをしたから渡辺容疑者を追い詰めたに違いないという「思い込み」が拡散されてしまったのである。

 だが元同僚であるAさんが語ったように、二人は全く接点がなく、表だったトラブルもなかったことが確認されている。ネット上の動きを重く見た警視庁は、事件発生2日目、報道各社に対し「渡辺容疑者の言っているようなトラブルは全く確認できていない」と当初報道を軌道修正するよう依頼する事態にもなった。

 しかし、一度一人歩きしてしまったネット上の声は今も残ったままで、故人の名誉を害し、遺族を苦しめ続けている。

 東京地検は7月15日、刑事責任能力の有無などを調べるために渡辺容疑者の鑑定留置を始めた。期間は約2カ月間。9月中旬に出る結果を踏まえ、起訴するか否かを判断する。

デイリー新潮編集部

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