右派なのに進歩的「イーロン・マスク」に代表される“テック右派”の台頭で浮かび上がるアメリカ社会の歴史的転換点
トランプ政権を支える“ニューライト”(新しい右派)は、従来の共和党政権を支えた保守層とは明確な違いがあるという。この記事の前編では、神戸大学大学院国際文化学研究科教授の井上弘貴氏による、白人至上主義的かつ男性中心主義的な「オルトライト」や、イスラエルのシオニズムにも通ずる「ナトコン」について解説してきた。8月10日放送のNHKスペシャルではイーロン・マスクらが描くアメリカ改革の深層が特集され話題となったが、後編ではAI市場の爆発的成長に呼応するかのように勢力を拡大するイーロン・マスクら「テック右派」の本質に迫る――。
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【写真を見る】「テック右派」の代表格ピーター・ティール氏は同性愛者であることを公言
※この記事は新潮社のYouTubeチャンネル「イノベーション読書」より<オルトライト、ナトコン、テック右派、極右……トランプを生んだアメリカの「シン・保守」入門 神戸大・井上弘貴教授に聞く>の内容の一部を編集したものです。
テック右派の代表格・ピーター・ティール氏の頭の中
急成長中の防衛関連銘柄「パランティア・テクノロジーズ」をご存じだろうか。ビッグデータ解析やAI技術を用いたデータ分析を軸に、防衛や医療、金融などの業界から次々と大型案件を受注。株価は過去1年で6倍以上の上昇を見せている。
このパランティアの創業者であるピーター・ティールこそ、アメリカの“ニューライト”(新しい右派)の中で勢力を増す「テック右派」と呼ばれるグループの中心的人物だ。
「ピーター・ティールの思想は独特なキリスト教信仰に包まれています」
そう解説するのは、神戸大学大学院国際文化学研究科教授の井上弘貴氏だ。
井上氏はティール氏の特殊な宗教観は一言では説明が難しいと言うが、ティール氏の人気著作『ZERO to ONE』はその思想を理解する上で1つのヒントになりそうだ。
「書籍の中に書かれているように、ティール氏はゼロからイチを創ることにこだわる人であり、そのクリエイティビティを“神の御業”として発現させるための条件が、“自由”であると考えています」(井上氏)
テクノロジーと神、一見すると結びつきそうにない両者だが、井上氏は「アメリカの歴史を紐解くと、両者が二律相反するものでないことが分かる」と指摘する。
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