「ハイになって退職を決意」するも、引きこもって不安に… 小説家・遠坂八重が気づいた「社会の歯車の尊さ」とは

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固定給のありがたみを痛感

 職探しは予想通り大変苦戦した。書類は通っても、生来の訥弁が露呈して面接で落ちまくる。お祈りメールの集中豪雨に無情なデジャブを感じた。

 大学時代、「就活なんて二度とやりたくない。新卒入社で定年までしがみついてやる」と誓ったことを思い出す。決意むなしく、~恐怖! 地獄の就活リバイバル~ であった。

 そうこうしてどうにか内定を得て、再就職して半年以上が経過した。しばらく社会と断絶していたため、満員電車と週5労働それだけで毎日くたくたになっている。

 しかし、去年の今頃とは比較にならぬほど心が健やかである。

 社会生活を送ることで得られる安心感、固定給のありがたみを痛感するようになった。
「社会の歯車」とはマイナスな文脈で使われることが多いが、歯車を任されること、不具合なくまわり続けること、それがどれほどすごいことか、尊いことか、脱落して初めて知った。

 今はゆっくり温泉旅行を楽しめるまでに回復し、来月には数年ぶりにメタルバンドのライブにも参戦予定だ。

 落とし穴的ターニングポイントだったが、私にとっては必要な過程だったと思う。

遠坂八重(とおさか・やえ)
神奈川県出身。2022年、『ドールハウスの惨劇』で第25回ボイルドエッグズ新人賞を受賞、同作で作家デビュー。最新刊は『死んだら永遠に休めます』。

デイリー新潮編集部

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