「ハイになって退職を決意」するも、引きこもって不安に… 小説家・遠坂八重が気づいた「社会の歯車の尊さ」とは
ハイになって退職を決意
2022年、『ドールハウスの惨劇』で第25回ボイルドエッグズ新人賞を受賞し、デビューした小説家の遠坂八重さん。最新刊『死んだら永遠に休めます』での“ハードな労働”描写が話題の彼女だが、その執筆の背景には自身の実体験があったようで……。
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一昨年から昨年にかけて、1年ほど無職だった。
長時間労働が続き心身に異変を感じつつ病院に行く気力もなくしばらく放置しいよいよ無視できないレベルで苦しいぞという段になってはじめて受診し自分が思っていたよりずっとヘビーな診断名がついたその日、ハイになって退職を決めた。「診断書をもってまずは休職しましょう」という担当医の適切な指示や、「思考力が低下しているときに重大な決断をするべきではない」という産業医の的確な助言も無視して、勢いのまま辞めてしまった。新卒入社で7年ほど勤めていたし、物持ちが良いため十分な貯金があった。
「いつでも戻ってきていいよ」と言ってくれる実家もあった。なので、なんとかなると思ったのだ。
転職サイトの文言を見るたびに焦燥感が
大学時代は、ほどほどにバイトして、国内外いろんなところを旅した。ヘヴィメタルやハードロックに魅了され、ライブや野外フェスに何度も足を運んだ。とても楽しかった。
私は今や自由の身。あのすばらしき日々をもう一度。そう思っていた。時間があってお金もあって、だからなんでもできるのだと思い込んでいた。
……結果、なんにもできなかった。無気力に拍車がかかり、旅行はおろか外出すらままならなかった。休めばすぐ元気になるという妄信が幻影であった、とこの段になって知った。
家賃、生活費、各種税金……収入が途絶えて思い知る。生きているだけでこんなにもお金がかかるのか、と。
引きこもりが長引いて人と喋らない日が続くと、「果たして社会に戻れるのだろうか」という不安でいっぱいになった。恐怖心に背を押されるようにして、予定よりずっと早く再就職活動をはじめた。「ブランクの許容期間は3カ月」「会社を辞めてから転職活動をはじめるのは危険」――転職サイトの文言を見るたび胸底から沸き立ってくるような焦燥感と後悔の念に駆られる。
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