「HIVに感染していたんです…」 レイプドラッグを飲まされて“集団暴行”の被害に遭った日本人カップルの悲劇

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「地元のクスリ仲間とヨリを戻した」

 この“事件”はいま関係各方面の協力を得ながら、少しずつ前へと進めている。捜査案件となるのでこれ以上の詳細は話せない。

 だが、ここにきて事態は想定外の展開を見せた。アリによれば、

「実は、蒼太が地元のクスリ仲間とヨリを戻したようで……。野菜(大麻)やチャリ(コカイン)をやりだしたみたいなんです。昨夜やっと連絡がとれたのでしつこく質すと、“ちょっと色々あって必ずやめるから。……もうどうでもいいだろ。またLINEする”と切られてしまいました」

 詳しく聞いてみると、レイプ事件の後遺症なのか、半月ほど前から蒼太は突然理由もなく激しい不安や恐怖の発作を繰り返すようになったという。本人も自覚して通院を始めたものの、まだ改善はみられない。そんなときに昔の薬物仲間からメールが届く。蒼太は気晴らしに会いに行ったそうだ。そこで薬物に手を出し戻ってこなくなったという。昔の仲間はSNSで多種類の薬物を密売しているという。「おそらく断れなかったのでしょう。薬物依存も再燃しているはずです」と彼女は心配する。

――アパートにブツはあるのか?

「隅から隅まで見たけど何もありません。HIVの治療薬を持って出ていないので、心配でなりません。結局、私たちが薬物をやり続けてドラッグパーティーまで参加したことが招いた結果ですが……」

 難しい問題だ。蒼太はレイプ事件の被害者。それが密売グループの手先となれば、薬物犯罪の加害者になる。被害者は救済しなければならないし、密売グループは壊滅しなければならない。薬物事件の複雑さを物語る事件でもある。みなさんにはどう映るだろうか。

 前編【「彼女だけじゃなく、僕もズボンをはぎ取られ…」 アメリカ滞在中の日本人カップルを襲った「最強のレイプドラッグ」の悪夢】では、2人の男女を陥れた「GHB」がどんな麻薬なのかについて、詳細に解説している。

瀬戸晴海(せと はるうみ)
元厚生労働省麻薬取締部部長。1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒。80年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを歴任し、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。18年3月に退官。現在は、国際麻薬情報フォーラムで薬物問題の調査研究に従事している。著書に『マトリ 厚生労働省麻薬取締官』、『スマホで薬物を買う子どもたち』(ともに新潮新書)、『ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図』(講談社+α新書)など。

デイリー新潮編集部

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