「HIVに感染していたんです…」 レイプドラッグを飲まされて“集団暴行”の被害に遭った日本人カップルの悲劇
「ロウとシロップを一緒にキメてみな」
その後、今度は背の高いモデルのような女性が「シロップ」を勧めてきたという。「シロップ(SYRYP)」とは、鎮咳薬のコデイン(麻薬処方薬)をソーダやワインに溶かしたもの。最近ではこれにプロメタジンという抗ヒスタミン(アレルギー)剤を加え、より強烈なダウナー系ドラッグに仕上げている。
「シロップの効果で次第に身体が温まって、もう夢心地です。そこに“これはロウのサンプルだよ。シロップと一緒にキメて、ベルーシすればいいよ”とその女性が言ってきたのです。“どういう意味?”と尋ねると、横にいた男が笑いながら答えました。“ロウは生コカイン、つまり純度がいいコカインのこと。ベルーシはスピード・ボール(※ダウナーとアッパーを混ぜたもの)のこと”だと教えてくれました。それでロウコカインを少しスニッフィングしました。すると一瞬でドカーンと突き上げてきて……。一方でシロップのマイナー効果がまだ残っていて、身体はゆったりしたまま。“これなに!”と蒼太とたまげちゃって。でも、“危ない! 今日はもうやめよう”と二人で口にしたのは覚えています」
参考までに彼女が口にした隠語について少し解説しておこう。「ロウ(RAW)」は密輸された1キロのコカインブロック(塊)から、直接削り取ったコカインで、“混じりけのないコカイン”を意味している。「ベルーシ」は、映画『ブルース・ブラザース』で兄役を演じた俳優の“ジョン・アダム・ベルーシ(John Adam Belushi)”に由来している。彼がスピード・ボールで中毒死したことからこう呼ぶようになったらしい。
「40ozビール」を飲まされて
その後のアリの説明をまとめるとこうだった。
中央の部屋でラップバトルが始まり、多くの客がそちらに移動した。アリと蒼太は長椅子に腰かけてベルーシに浸っていた。そこに「Yo、Yo、ジャパニーズ? 好きなラッパーは?」などと言いながら5、6人の男たちが近づいてきた。彼らは2人を歓迎するような素振りを見せながら「40oz(フォーティーオンス)」というビールを勧めてきたという。40ozはラッパーに人気のあるビールらしく、ラッパーファン同士のご機嫌な挨拶なのだろうと思い、2人とも半分ほど飲んだという。
すると、まもなく――。
2人は強い眠気に襲われて意識が朦朧としてきたそうだ。アリは迫ってきた男が “Jap!Fuck you asshole”と嘲笑したのを記憶しているという。床に引きずられ、ズボンを脱がされそうになったのが蒼太の最後の記憶だという。
その後「アリ、アリ! 大丈夫か?」と叫ぶ蒼太の声で目覚めたアリは、強烈な脱力感と頭痛を覚え、レイプされたことも全身で感じ取ったという。さらに、震えながらイーサンに電話する蒼太の言葉を聞いて、彼も被害に遭っていたことを知る。40~50人いた客たちはまばらで、音楽も鳴っていない。そこにイーサンが試薬を持って駆けつけた。試薬でビールの中身を検査し、スタッフや残っている連中に必死になって状況を質していたそうだ。しかし、周囲の誰も“事件”に気付いていなかったらしい。
蒼太が重い口を開いた。
「全身の痛みで目覚めました……。僕が複数の男からレイプされるなんて。それも彼女と一緒に……。こんな地獄みたいな話ありますか。予定を繰り上げて帰国したけど、2人が当日のことを語れるようになるには時間が必要でした。薬物の件で相談したことがある弁護士に、アリには内緒で話をしました。知り合いのカップルの話として“何とか手立てはないでしょうか?”と相談したものの、“向こうで起きた事件だ。現地の警察に被害届を出して領事館に相談しなければ解決は難しいだろう。仮に加害者が判明したとしても、ドラッグパーティーでのできごとなので、合意があったと主張されれば立証は難しい” と。でも、自分たちが逮捕されても構わないので、やつらを処罰してもらいたい……。こんな事件が発生していると多くの人に伝えてください」
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