令和の若者からは「Adoに似てる」なんて意見も… “シティポップじゃない昭和曲” 戸川純の85年発表作品が海外で怪ヒットのワケ
1980年代半ば、そのパンキッシュなボーカルや、タブー視されがちな内容に踏み込んだ歌詞で“時の人”となった戸川純（64）……彼女が1985年に発表した楽曲「好き好き大好き」が海外のTik Tokでバズっていると話題になったのが2021年11月ごろ。22年10月には公式のミュージックビデオ（MV）が公開された当時のプレスリリースによると、22年9月にはストリーミングサービスのSpotifyで約2400万回再生されたそうだが、25年7月時点では約5800万回と倍以上のヒットとなっている。つまり、一過性のヒットではなく“令和の人気曲”として定着していたのだ。そこで、どのような地域で人気となったのか、どのような魅力があるのか、あらためて探ってみた。
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その前に、この「好き好き大好き」について説明しておこう。本作は、同タイトルのアルバム『好き好き大好き』（1985年11月10日発売）のリード曲で、Aメロのサスペンス・タッチの演奏から、Bメロで嵐が巻き起こるかのような演奏、そしてサビで一気にポップな雰囲気になる曲調の中、“好き好き大好き”と3回繰り返した末に、“愛してるって言わなきゃ殺す”とトドメを刺す、という当時としてはかなり前衛的な内容。当時はオリコンLPチャートの最高12位で、一部のサブカルチャー的なファンが熱狂していた。
“シティポップではない”昭和曲がバズった理由
女の子がチークブラシとカミソリを間違えて使い、頬が血だらけになる。そんな衝撃的な映像とともに“好き好き大好き”というサビが流れる。このわずか10秒のTik Tok動画がバズったのは、21年10月のこと。
実際の人気の広がり方はどうだっただろうか。ビルボードジャパンの研究・開発部、高橋侑太郎氏に調べてもらった。ビルボードジャパンでは現在、世界でヒットしている日本の楽曲をランキング化した“Global Japan Songs”の分析サービス”Chart insight Global”の提供を開始している。
「分析プラットホーム『Luminate』の調べによると、21年の4月ごろからアメリカで人気が出始め、9月ごろに最初のピークがありました」
まず理由のひとつに考えられたのは、この前年末から松原みき『真夜中のドア～Stay with me」が大ヒットし、世界中で“日本の懐かしいポップス”を探し出すブームが起こっていたこと。
もうひとつは、女の子同士の仲睦まじい（そしてすこしホラーな）関係を韓国のイラストレーター・VIVINOSが描いた非公式MVがYouTubeにアップされたことがヒットの要因と考えられる。
同じ昭和生まれの楽曲とはいえ、まさかシティ・ポップとはかけ離れた曲調の本作が、韓国ではなくアメリカで最初にバズっていたとは……。
次のピークは以下の通り。
「21年11月にアジアや南米で人気に火がつき、22年末まで数回のピークを迎えました。その後、23年4月から約半年間にわたって最大のピークを迎え、アジアやアメリカだけでなく、ヨーロッパに人気が広がっています」（高橋氏）
これは、22年10月に公開された公式のMVの影響も大きいのだろうか。同MVは3年弱で約2200万回の再生回数、前述の非公式のアニメMVも約1800万回で、合計4000万回の人気に膨れ上がっている。
特に驚くべきはその国別シェアで、日本は上から数えて12番目でわずか2％。しかも、1位のアメリカも10％とさほど高くなく、2位以下がインドネシア、ブラジル、インド、フィリピンと続き、上位20カ国のシェアを除いた「その他地域」が全体の35％以上を占めている。
つまり、全世界に広がっており、高橋氏も「“その他地域”がこれだけ多くなるのは珍しい」と驚いていた。
それにしても、ほぼすべて日本語の歌詞の本作のどの点に惹きつけられるのか。YouTubeの公式MVに寄せられたコメントの大半が外国語だが、翻訳しながら拾ってみると、《ホラーだけどキュートで素晴らしい作品》というものが多い。
“愛してるって言わなきゃ殺す”というフレーズの意味が分からなくても、その感想は令和の日本の若者による投稿ともほぼ重なっている。
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