「すべてが予定通りだったのに」…40年前の乗鞍岳「老人登山隊」遭難騒ぎ 安全第一を忘れた時に見た「雷鳥の親子」の警告

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運転手が警察へ何度も電話

 29歳女性と41歳男性も交じっていたが、残りはすべて50歳以上。中心が60代。最高は78歳。しかも、パーティー16名中、半数が女性で、その上おたがいに顔も知らないメンバーも加わった混成登山隊だったというわけなのである。いくら慎重になっても慎重すぎるということはなかったのだ。

 そのパーティーが遭難したのではないかと、警察へ通報したのは、彼らが乗っていたマイクロバスの運転手だった。

 この人は前日、伊丹市から登山隊一行を旅館「美寿野館」へ運び、当日は、朝5時に旅館を出て畳平まで送ったのちに、約束通り空のマイクロバスをころがして、長野県側の下山口・安曇村の鈴蘭バスターミナルで待っていたのだ。

 ところが、下山予定の午後2時を回っても現れず、天候は急変。豆粒大の雹(ヒョウ)は降るわ、落雷は始まるわで、この人が警察へ何度も電話をし、以後、大騒ぎになったことはご存じの通り。

すべてが予定通りだった

 では、そのころ、この老山登山隊、一体どこで何をしていたのか。

 B山草会から参加した59歳女性はいう。

「畳平を出発したころは、すばらしいお天気でした。予定通り、7時ごろには、山頂一歩手前の肩の小屋に到着。そこで、旅館で握ってもらったおむすびを広げ、朝食を摂ったんです。その後もゆっくりと登り続け、そうですね、9時前後には乗鞍の頂上・剣ヶ峰に着いていました。すべてが、予定通りだったんですよ」

 この一行が、高山植物の観賞にことのほか熱心だったのはいうまでもない。が、それにしても目的地の頂上付近で、予定のコースや天候や時間のことを忘れてしまうのである。

「頂上付近で雷鳥の親子が飛びたつのを見て、“これは雨になるぞ”なんて、誰かがいっていたんですけどね」という人もいる。それでも全員が、いつの間にか、このまま予定通り県道乗鞍線に出て、真っすぐマイクロバスの待つ鈴蘭へ下りるのは、あまりにもったいないと思い始めていたようだ。

何度引き返して進んでも同じところを歩いて

 南へ向かって高天ヶ原まで足を延ばした。花が咲き乱れていて、気分のいい所だそうである。そこで昼食。全員でおむすびをぱくついた。

 A山草会の会長によれば、

「それでも、その高天ヶ原を見学したら引き返そうと思っていたが、あまりに天気がいいので、さらに行こう行こうということになった。県境の稜線伝いに野麦峠の方向へどんどん歩いた。ところが、雷鳥の親子を見ると雨が降るというのは本当だった。じきに天候が崩れ、雹が降り始め、雷も鳴った。進もうと思っても、いままで歩いて来た尾根がすっかり熊笹に覆われてしまい、道が分からなくなっていた。

 リーダーは、“昔通ったことのある道がなくなっている”と言い出した。3回くらい違う尾根へ迷い込んだ。熊笹が胸の高さほどになった。森林地帯へもまぎれ込んで、そのつど引き返した。何度引き返して進んでも、いつも同じところを歩いていた……」

 一行は、岳谷と呼ぶあたりで夜営している。高天ヶ原からそこまでは、ほんの2、3キロの場所である。それだけの距離を進むのに、午後1時ごろから、夜の7時までかかっている。

 ***

 地元の人たちによれば、この時点で彼ら16人は全員遭難の危機に直面していた――。第2回【「助かったのは奇跡」「遭難などしていない」…40年前の乗鞍岳「老人登山隊」遭難騒ぎ 道に迷ってもなお“二手に分かれた”驚愕の理由】では、二手に分かれるというまさかの展開、無事に発見された後の地元の反応などを伝える。

デイリー新潮編集部

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