「ベルギーチョコ」「ベルギーワッフル」がなくなるかも!? 古市憲寿が目の当たりにしたちょっと特殊なお国事情
夏至の時期はベルギーにいた。日本ではチョコレートやワッフルを思い浮かべる人が多いだろうが、よく「無政府状態」になる国としても有名だ。無政府とは何やら物騒な響きである。
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直近では2024年6月9日に総選挙があったのだが、内閣が成立したのは何と今年の2月3日。選挙では主要7党が拮抗したため、組閣が難航、8カ月もかかってしまったのだ。現状は5党による連立政権である。
同様の事態はたびたび発生していて、2010年から2011年にかけて541日の無政府期間があり、当時ギネス認定された。さらに2018年から2020年まで652日間も連邦政府が成立しなかった時期もある。
実のところ、ベルギーは分裂の可能性さえある国だ。オランダ語圏の北部フランデレン、フランス語圏の南部ワロンでは、言語のみならず所得、失業率から経済構造まで違う。北部は北欧並みの高所得地なのに、南部はかつて炭鉱で栄えた夕張のような地域。北部では独立や連邦制を目指す政治活動が盛んだ。そして北でも南でもない首都ブリュッセルがどっちにつくのか、というのも問題になる。
そもそもなぜベルギーが「無政府」でも大丈夫かといえば、地方政府が強いからだ(他にも予算が自動執行できたり、常任官僚が国際窓口になったり、いくつか要因はある)。現代ベルギーの成立は1830年だが、ブリュージュやゲントといった街はそれ以上の歴史を持つ。ローマ帝国終焉(しゅうえん)後に栄えた商業地には古い歴史があり、宗主が代わりながらも、自治と地場経済が継続してきた。政治家のキャリアとしても、ただの国会議員より市長の方が尊敬される傾向にあるようだ。
ベルギーに限らず、欧州では組閣に時間がかかったり、政権がすぐに崩壊したりという事例が相次いでいる。手続きを重視する民主主義を実践している形だが、多党化とポピュリズムの時代において、旧来の調整メカニズムの限界ともいえる。
現地では、ドイツのような大国さえ影響力をなくす中、相対的にEUの存在感が強まっているという話も聞いた。欧州委員会の委員長を含めて委員や議員の任期は5年。すぐに政権が代わったり、組閣さえままならない各国政府に比べれば安定している。
さて、ベルギーは2026年に日本との国交160周年を迎える。ブリュッセルでは、佐伯耕三さんの紹介で在ベルギー日本大使の三上正裕さんと会ってきた。日本ベルギー友好160周年に向けてさまざまな記念式典を準備中だという。わざわざロゴマークまで公募で決めたようだ。思わず大使本人にも伝えてしまったが160周年とは何とも中途半端。だが考えてみればベルギーが現在のような形でいつまで存在しているかは分からない。連邦制になる可能性はもちろん、フランデレンの完全独立もないとは言い切れない。そういえばワッフルもチョコも各地で作られているため、名称問題が勃発しかねない。こんな事情を考えると半端な160周年にもありがたみが出てくる。










