天才ジュニア・バイカーギャング・刑務所…天と地を体験した31歳ゴルファー「才能の活かし方がわからなかった」 世界ランク1215位から掴んだ全英OP切符
ジュニア時代の恩師が面会に訪れて
何の目標も希望もないまま刑務所暮らしをしていたピークは、あるとき、ジュニア時代にオーストラリア代表としてチームを組んだキャメロン・スミスがプロゴルフ界で活躍し、メジャー覇者になったことを風の便りで知った。
「でも、オレには関係ない。オレは、もう終わりだ」
そう思っていたら、ジュニア時代の恩師で、オーストラリアでは一流ゴルフコーチと崇められているリッチー・スミスが、ピークを激励するために刑務所を訪れたそうだ。
その後も、スミスは面会を続け、ピークはスミスとの会話を重ねていくうちに、「オレも、もう一度、やれるかも? やろう!」と心に決めた。
一念発起したピークは模範囚となった。最後の1年間は環境のいい刑務所に移されて、昼間は12時間、屋外で自由に過ごすことも許された。その間、コーチのスミスはピークにゴルフの練習をさせ、ピークのホームコースのメンバーの大会にも出場させた。
すると、ゴルフから5年も6年も離れていたことがウソのように、ピークは軽々と勝利を挙げた。優勝スピーチではジョークを交えて、こんな挨拶をしたそうだ。
「みなさん、今夜は安心して眠ってほしい。私はこれから刑務所に戻りますから、心配は無用ですよ」
ゴルフができることに心から感謝
2019年5月。刑期を終え、晴れて刑務所から出所したピークは、ホームコースのグリーンキーパーの職を得て地道に仕事をしながら、プロの試合にも次々と挑んだ。
刑務所で覚えた規則正しい生活と、短時間に最大限の仕事をこなすタイムマネジメント術は、ピークの社会復帰とゴルフ界への復帰にとても役立ったという。
そして、底辺まで堕ちたピークは、かつて「天才」と呼ばれた日々のことを記憶から消し去り、社会で生活できること、仕事があること、ゴルフができることに、心底、感謝するようになった。
刑務所の中では、理解し難いヒエラルキーに苦しめられたというピークは、社会の不条理を知り、忍耐を覚え、どんなに小さくてもいいから望みを抱くことの大切さを知った。
それゆえ、社会に戻ってからは、仕事とゴルフの練習を粛々と行っていた。すると、まったくの予想外で恋に落ち、ガールフレンドのために頑張ろうという気持ちが、ピークの新たなモチベーションになった。
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