ゴルフ界のレジェンド「世界のアオキ」をアマチュア扱いした超大物政治家

政治

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 青木功氏(72)といえば、誰もが認めるゴルフ界のレジェンド。その青木氏がプロ生活50周年を記念して刊行した著書『勝負論』では、一流のプロならではの思考法が明かされているが、意外な大物のキャディをつとめた際の秘話も披露されている。

 プロになって10勝ほど挙げた頃、青木氏は所属先の社主だった小佐野賢治氏に「明日、暇なら箱根に来ないか。角さんと一緒にゴルフをやろう」と誘われた。角さんとは田中角栄元総理のこと。ところが、翌朝ゴルフ場に行くと、すでにメンバー4人が揃っていたため、入る余地がない。そこで、自分から「田中さんのキャディをやらせてもらいます」と言って、バッグを担ぐことになったのだという(以下は同書より)

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■無頓着な攻め方

 角さんは50歳ぐらいの頃に、周囲から健康のためと勧められてゴルフを始めたらしい。以来、レッスン書を読み漁ったり、東京・赤坂の練習場でかなり打ち込んだと聞いた。

 せっかちな性格だからか、とにかくプレーが早くてね。スコアよりも1日3ラウンドから4ラウンドするのが目標だったみたいで、腕前はせいぜい90から110の間を行ったり来たりだったようだ。

 数ホールの間、おれは何も言わずに角さんのプレーを見ていた。ある程度のショットのバラつきはやむを得ないが、コースマネジメントというか、攻め方が無頓着(むとんちゃく)でもったいないと感じるゴルフだったので、

「先生、ここは5番でなんか打っちゃだめです。8番で右のバンカーの手前を狙って下さい」とか、

「このアプローチは転がした方が無難です」

 という具合にアドバイスしてみると、その後はなかなか上手くいった。

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■大喜びした角さん

 もちろん、全てがアドバイス通りに運んだわけじゃないけれど、おれの立てる作戦なり、攻め方の意図が分かってきたのか、角さんはあの特徴的なダミ声で、

「君は結構、ゴルフが上手そうだな」

 と言う。

 きっと研修生か何かだと思っていたんだろう。

 おかしくてしょうがなかったが、そのままキャディを続けると、

「今日は黙って君が選んだクラブを使うから90を切らせてくれ」

 と言う。

「いいですよ。ホントに私の言う通りに打って下さいよ」

「おお、その代り80台だぞ」

 そこからはおれが全てのクラブを選び、パットのラインも読んだのだけど、結果的に前半を42だか43という角さんのベストスコアで回れた。大喜びする角さんに、

「先生、半分だけ良かったからって喜ぶのは早過ぎます。今日は絶対に90を切ってもらいますから」とハッパをかけた。

 すると「ヨッシャ!」と一国の総理を務めた人物がどこの誰だか分からない男のアドバイスに一切、逆らうことなく真剣にプレーしたのである。

■「この男、見込みがある」

 後半はスコアを意識し過ぎたせいか苦戦したが、トータル88でホールアウト。すぐさま握手を求められ、

「ありがとう、ありがとう。君のお陰で遂に90が切れたよ」

 と喜色満面だった。

 おれも自分のことのように嬉しくなって達成感に浸っていると、角さんが小佐野さんに言った。

「賢ちゃん、この男、なかなかゴルフが上手いぞ。見込みがあるから面倒みてやりなよ。わしがプロになることを保証するから」

 それを聞いて皆がひっくり返って笑い転げていると、

「おい、青木よ。お前は今、何勝ぐらいしてるんだっけ?」

 笑顔で小佐野さんが聞いてきた。

「えーっと、10勝はしていますね」

 すると角さんは、

「ん……? そうか、そうか。どうりで上手いはずだな! ワッハッハ」

 と、クラブハウスへ戻って行った。

   *

 青木氏は、角栄氏について「何とも温かみのある無邪気なお人だった」と振り返り、「自然体でコミュニケーションを取ると、地位や名誉なんて関係なくなるものなんだね」と語っている。政界とゴルフ界のレジェンドの人生が交差した一瞬のエピソードである。

デイリー新潮編集部