「初恋の人妻」に会いたくて…探偵を雇って調べると そして始まった53歳夫の“思い出の後始末”

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3ヶ月後、早希さんを“発見”

 いくらかかるか心配だったが、とりあえずやってみると彼は言ってくれた。そして3ヶ月後、なんと早希さんが見つかった。やはり夫の勤務先からたどっていったらしい。

「早希さんは離婚していました。その後、再婚したけどまた離婚したらしい。どうしてだろう、もしかしたら僕のことが忘れられなかったのかもしれない。そんなふうに考えてしまった。居場所はわかりましたが、会いに行くべきかどうかさんざん悩みました」

 彼女はすでに60代後半だった。今は、とある町でスナックを経営しているという。知ってしまったら動かないわけにはいかなかった。会いたい、でも会わないほうがいいかもしれない。早希さんはすでに自分のことなど覚えていないかもしれない。気持ちが180度揺れ動いた。

「でも意を決してある日、会いに行きました。うちからだと泊まらざるを得ない距離です。実家のほうで友人の集まりがあるから久しぶりに行ってみると妻に嘘をつき、実家とは正反対の方角へ行きました」

 夜になってスナックに足を運んだ。周りをうろうろし、通りがかりの人に奇異な目で見られたのをきっかけに思い切って店のドアを押した。

「久しぶりね」

「いらっしゃい」

 カウンターの中の女性が顔を上げた。常連しか来ないスナックなのだろう。カウンターには数人の客がいたが、全員がいっせいに振り返る。

「カウンターの隅に座りました。おそるおそる顔を上げると、早希さんがいた。年はとったけどおもかげはありました。彼女、低い声で『久しぶりね』って言ったんです。その瞬間、僕はなぜかこみ上げてくるものがあって……」

 ほとんど話はできなかった。常連さんたちが気をきかせたのか去っていくと、初めて靖文さんは「謝りたかったんです」と声を振り絞った。会いたいと思っていたのは謝りたかったのかと自身で初めて気づいた。

「私こそ若い学生さんに悪いことをしたと思ってたと、彼女が言いました。『あれからいろいろバチが当たったけど、今は気楽に商売しているの。どうしてここがわかったの?』と言われ、どうしても会いたくて探したと正直に伝えました。『私を気にしてくれる人がいたなんて、とてもうれしいわ』って。若く見えましたよ。とても60代後半には見えなかった。当時、色っぽくて素敵な女性だと思っていたけど、今でもじゅうぶん色っぽかった」

 あのころ疑問に思っていた、「本当に子どもがいたのか」問題は、やはり彼女の嘘だった。子どもがいると言ったほうが靖文さんが気が楽だろうと思ったのだそうだ。実際にはあの数ヶ月前に流産し、それきり子どもはできなかった。そして夫に疑われたのは本当で、流産のこともあり夫婦関係は完全に壊れたのだという。

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