保守系スローガンだけではない 「参政党」が既存政党の“脅威”に変貌した理由 オーガニック、格差是正で“左”にもウイングを広げ
日本の精神反映した「創憲」
「東京都においても、外国人の法律違反ももちろんそうだが、社会保険料、健康保険料の未払いといった問題が起きている」
参政党から都議に当選した一人は、活動中、街頭で訴えた。在日外国人を巡るトラブルは、国会でもたびたび取り上げられるなど、急速に有権者の関心に上っている。同党は都議選で外国人について、受け入れ体制の厳格化や不正・犯罪取り締まりを前面に出した。「支持を集めた大きな理由の一つ」(与党筋)とみられている。
ホームページには、より項目を絞った党の重点政策として、外国資本による公有地や水資源買収の制限、自虐史観を否定する教育などがある。参院選には、安全な社会を築くとする管理型外国人政策や、日本の精神性を反映した憲法をつくる「創憲」などを公約した。学校教育における神話や建国の歴史を学ぶ機会を増やすといった記載もある。
お金と心
目を引くのは、それらと並立し「化学的な物質に依存しない食と医療」をうたっていることだ。さらに詳細な政策を見ると、有機・自然栽培の促進、食品情報の積極的開示などがある。参院選公約では「オーガニック給食」を掲げた。食における自然の尊重や安全性の取り上げ方は、政党の中でひときわ目立つ。子育て世代の共感を呼びやすいテーマだ。一方、医療におけるワクチン接種には慎重な態度を取る。
消費税などの税金や社会保険料を軽減する、国民負担率の引き下げにも力点を置く。これらは、若者層の支持が比較的厚いこととも合わせ、「手取りを増やす」のキャッチフレーズで党勢を伸ばした国民民主党の政策との類似が想起される。国民民主は「年収の壁」の撤廃など明快な論理性による説得力ある主張と、玉木雄一郎代表に対する若年世代からの支持を基盤に、現役世代の懐事情に照準を合わせた政策を打ち出した。参院選では30歳未満の所得税減税を公約した。一方でその政策は世代間対立を招くと心配する声もある。
参政党も各種の負担軽減策と、巧みなSNS戦略を融合し、若者層に切り込む。ただ、経済政策とは全く別のアプローチである伝統的家族観や地域社会におけるつながりの重視など、保守的主張がバッファーとなり、その政策は若年層と年配層との対立という構図を生じさせにくいメカニズムとなっている。あるベテラン政治家は「減税といったお金の話に、心の要素が加わっている」と分析した。都議選当選者の一人は、街頭で「古き良き日本を」と書いたのぼりを立てながら演説した。もちろん、受け止め方は人それぞれだ。
もう一つ取り上げるとすれば、参政党は奨学金について返済不要の給付型拡充や返済免除制度整備、学用品購入などのための子育て給付金を強く訴えていることだ。経済的理由による進学断念をなくすとして「自己責任論」を否定する。これらは、保守とは対極にある、いわゆるリベラル系の代表的施策でもある。
しかし、リベラル系による主張は、それらが個人の権利に基づくという色彩を帯びるのに対し、参政党の政策は家族、地域、国という共同体が教育を包摂するとの印象が強い。つまり、施策は似通っていても、背景にある思想は大きく異なっているのだ。また、戦後80年を経た現在、保守派が独自の理論の下、格差是正政策に本格的にウイングを広げ始めたともとらえることができる。
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