「銀河鉄道999」の大宇宙は“小学生向けの水彩絵の具”で描かれていた…過去最大級の「松本零士展」5つの見どころを元担当編集者が解説
(3)カラー絵の具の秘密
今回は、カラー原画もたくさん出展されています。特に「銀河鉄道999」など、大宇宙を舞台にした作品は実に美しく、いったい、どうやって、こんなにキレイな濃淡の色合いを出すのだろうと、見とれてしまう方も多いと思います。実は、ここで使われている絵の具は、〈サクラマット水彩〉。どこの文房具店でも売っている、小学生向けの水彩絵の具です。
学童用画材を多くつくっている文具メーカー、大阪のサクラクレパス社が、〈サクラマット水彩〉を売り出したのは、1950(昭和25)年でした(松本先生が中学に入学した年)。水加減を多くすれば「にじみ」や「かすれ」が出る透明タッチに、少なくすればムラのない不透明タッチになる、画期的な水彩絵の具でした。同社のHPによれば〈学童用に開発され〉〈図工・美術の授業に適して〉おり、〈失敗しても修正できる〉と解説されています。
松本先生は、「中学生のころから、〈サクラマット水彩〉を使っている」と語っていたそうです。おそらく、発売直後から、にじみや濃淡が出せる点に魅力を感じていたのでしょう。その中学生時代に描かれた、最初期のカラー未発表作品「虫の世界探検記」も出展されています。
また今回は、仕事場に残されていた〈サクラマット水彩〉チューブの現物も展示されているので、見落とさないでください。70年以上にわたって、美しい大宇宙や華麗な衣装を彩ってきた絵の具です。
(4)「2色原稿」の“松本マジック”
むかしからマンガには「2色印刷」という独特な印刷表現がありました。「墨」(黒)と、もう1色、別の色を組み合わせる、いわばプチ・カラーです。松本先生は、この「2色印刷」の天才でした。
今回もいくつか出展されていますが、特に「セクサロイド」「未来盗賊アリババ」などの「2色」原画に注目してください。おなじみの細身美女が、全身に巻きつくほどの「金髪」ロングヘアをなびかせています。ぼんやり見ていると、「墨」「赤」「金色」など複数の色で描かれているような錯覚をおぼえます。
ところがこの「金色」部分はよく見ると、単なる「薄茶色」です。墨と赤の2色を混ぜて描かれており、「金色」ではありません。しかし絶妙な混ぜ具合と構図、さらには、読者が抱いている「“松本美女”のロングヘアは金髪」との“先入観”をうまく利用して、わたしたちに「金髪」であるかのような、“錯覚”を起こさせているのです。まさに“松本マジック”。こういう点がわかるのも、原画展ならではの楽しみでしょう。
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