「日本全土をいつでも空襲できる状態になりかねない」 中国の海軍の実力は「侮れない」 現役自衛官が解説

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「デモンストレーション的な活動」

 普段は厳しく情報を統制している中国軍が、今回に限り撮影されたがるとはどういうことか。その疑問の答えは、中国軍の擁するもう一隻の空母「遼寧(りょうねい)」の動きにある。

「5月末に宮古島の東を通過して太平洋上に出た遼寧は、そこでヘリコプターや戦闘機を約140回も発着艦させるなどの訓練を行っています。その後さらに東進し、今月7日には南鳥島の近海にまで至りました。山東も9日には沖ノ鳥島の北側に達し、戦闘機を発着艦させた。太平洋上で中国海軍の空母2隻が同時に活動したのは、これが初めてのことです」(前出の記者)

 山東と遼寧はともに全長300メートル超と、海上自衛隊が擁する最大の護衛艦「いずも」をしのぐサイズ。どちらも空母をサポートするミサイル駆逐艦や支援艦を複数引き連れ、本格的な艦隊として太平洋に進出した。織田氏いわく、J-15の急接近よりこちらの方がよほど衝撃的だという。

「かつて中国海軍は沿岸でしか活動できないことを揶揄され“ブラウンウォーター・ネイビー(沿岸海軍)”と呼ばれていました。それが今回、遼寧はかなり遠洋で活動していますし、山東は自衛隊のP-3Cに対する邀撃(ようげき)態勢までできています。沿岸と違って陸地に緊急着陸できない洋上では、パイロットは空母に確実に着陸する高い技術も求められます。中国海軍が“ブルーウォーター・ネイビー(遠洋海軍)”に進化したことを見せつける、デモンストレーション的な活動とみて間違いありません」

中国海軍の実力は「侮れない」

 さる現役自衛官も、いまや中国海軍の実力は「侮れない」と語る。

「遠洋航海のためには“洋上補給”といい、海の上で補給艦から別の船に燃料を受け渡しする技術が必要です。かつての中国海軍の洋上補給はお粗末なもので、油を海にまき散らしながらやっていましたが、ここ10年で見違えるほど素早くなりました。また、船の設備も昔は消火装備が整っていないなど実戦には不安な造りでしたが、今回の空母は写真で見る限り、かなり現代的な装備になっているようです」

 危険な飛行をしてまで注目を集めようとしたのは、こうした進歩を見せつけるためだったというのだ。

台湾への侵攻、米国との対決を見越したもの

 また金沢工業大学大学院の伊藤俊幸教授いわく、空母の進出は中国が企図する台湾への侵攻や米国との対決を見越したものでもあるという。

「中国は台湾有事の際に米軍や自衛隊が介入してくることを考え、第1列島線と第2列島線という二つの防衛ラインを想定しています。前者は九州から沖縄を通り、フィリピンに至るラインで、この内では敵に行動させないことを目標にする。後者はさらに遠洋に引かれた小笠原諸島からグアム、サイパンに至るラインで、この両線の間では空母や中国本土からのミサイルを使い、敵の近接を阻止することを目標にしています」

 今回、遼寧がその第2列島線を越えて活動していたのだ。

「米軍が介入した場合、米軍基地のあるグアムや自衛隊基地からの増援が想定されます。中国は実際に第2列島線の内外に空母を展開することで西太平洋における日米の防空のレベルを探るとともに、遠洋での空母艦隊の運用や連携を、より実践的な形で訓練したかったのだと思います」(同)

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