「ウチの子は大丈夫」は通用しない“薬物依存”の悪夢…成績優秀で、家族に愛された「女子大生」が“最悪の選択”に至るまで

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リキッド型が出回るように

 PCPはアメリカで開発され一時期は“麻酔薬”として使われていたが、幻覚・妄想、突発的な暴力など、様々な副作用を引き起こすことが判明したため、今では動物用麻酔薬としてしか許可されていない。1970~80年代にかけては「エンジェル・ダスト=Angel dust=天使の粉」と呼ばれてアメリカで大流行した。毎年100人以上が死亡、数千人が救急搬送されたほか、多くの暴力事件・事故が発生する事態を招いた。新型麻薬クラックやケタミンなどの出現によって、人気は下火になったが、最近の“幻覚剤ブーム”で人気が復活。「Wet(ウェット/湿りを意味)」や「Water(ウォーター)」と呼ばれるリキッド型のPCPが出回るようになった。

 ストリートではタバコにPCPを浸したものが「ディッパー(Dipper/浸したものという意味)」と呼ばれ、1本10~35ドルで販売されている(純品かどうかで価格差が生じる)。大麻に浸したものもあり、これは「Love boat(ラブボート)」と呼ばれている。

 話を戻そう。

――ディッパーとは驚いたな。渡米してからのことを具体的に話してくれないか。

「ワシントンDCの大学に留学が決まり、大学卒業と同時に渡米しました。英会話は子供の頃から好きだったので生活には困らなかった。アジアンレストランでバイトもするようになったんですが……、そこで同じアルバイターの彼に声をかけられたんです。アメリカに来て色々と楽しみたいと浮き足立っていたのが間違いのはじまりでした」

 果たして、アメリカでの生活にどんな落とし穴が待ち受けていたのか。第2回【“薬物をキメた恋人”がナイフで自分の太ももをメッタ刺しに…まじめで成績優秀な「女子大生」はなぜ人生をやり直せなかったのか?】では、無慈悲に人間を蝕むドラッグの実態が描かれている。

瀬戸晴海(せと はるうみ)
元厚生労働省麻薬取締部部長。1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒。80年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを歴任し、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。18年3月に退官。現在は、国際麻薬情報フォーラムで薬物問題の調査研究に従事している。著書に『マトリ 厚生労働省麻薬取締官』、『スマホで薬物を買う子どもたち』(ともに新潮新書)、『ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図』(講談社+α新書)など。

デイリー新潮編集部

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