介護のプロが親の介護をしない理由とは 「親への虐待に発展してしまうケースも」
4月に施行された“改正介護休業法”により、働きながら親を介護するための環境の整備が進んだ。だが実は、法律を“誤用”すると、むしろ介護離職のリスクが高まってしまうという。親子ともに知っておくべき「介護の誤解」を、現場を熟知した専門家が解説。
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【写真を見る】親孝行のつもりが「監視」に プロも「同居介護」を勧めないという
時代の変遷に合わせ育児・介護休業法が改正され、今年4月から施行となりました(以下、介護休業法)。少子高齢化は進むばかりですから、社会の変化に応じて法律が改正されるのは歓迎すべきことです。
一方で、私は大いなる懸念を感じています。今回の法改正によって、介護に関する環境整備は進んだものの、その結果、「介護離職」が増えてしまう恐れがあるからです。法律が改正され、確かに介護のために仕事を休みやすくなりました。でも決して、「介護に専念するため」に介護休業法を利用しないでください。
〈と、矛盾するかのような不思議な話をするのは、社会福祉士で、介護支援専門員、介護福祉士でもある川内潤氏だ。
年間700件にも及ぶ介護相談に乗っている川内氏は、厚生労働省の「令和4~6年度中小企業育児・介護休業等推進支援事業」の委員も務めるなど、文字通り介護のプロである。その川内氏が主張する「介護に専念するために介護休業法を利用してはならない」とは、一体どういうことなのだろうか。〉
法改正三つのポイント
まず、今回の法改正の三つのポイントについて説明します。
一つ目は、従業員が家族の介護が必要な状況に直面した際、事業主は必ず、「うちにはこういう制度があるので利用できます。どうしますか?」と伝え、従業員の意向を確認することが義務付けられた点です。二つ目は、介護休暇・休業に関する情報を、事業主は従業員が聞いてくる前に説明しておかなければならない点。そして三つ目は、これまでは入社したばかりの人には介護休暇・休業が認められなかったものの、これが撤廃され、働き始めたばかりでも介護のために休めるようになった点です。
こう見ると、やはり「介護するために仕事を休みやすい制度」が、より整備されたように感じるかもしれません。しかし、本来の介護休業法の趣旨は違います。あくまで、「介護体制を整えるために休める制度」なのです。
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