アメリカにとって一番の宗教は「民主主義」? 古市憲寿が“モルモン教の街”で感じたこと
アメリカ西部に位置するソルトレイクシティは、モルモン教徒が築いた街として有名だ。中心地には神殿や博物館があり観光客も一部見て回ることができる。
【実際の写真】古市憲寿が「意外」に思った“モルモン教の街”の風景
モルモン教は日本でいえば天理教くらいの古さ。19世紀に生まれた新興宗教である。当時のアメリカは第2次大覚醒といって、異様な宗教的熱気が全土に広がっていた。独立後の混乱、フロンティアの拡大などで社会が流動的だったのだ。そんな時代に人々は宗教にすがる。新しい宗派や終末思想が次々に誕生した。
モルモン教も、まさに混乱の時代に生まれた宗教。農家の息子だったジョセフ・スミスが、天使から金版を授かったと主張、その金版を翻訳したのがモルモン書である。紀元前600年ごろに古代イスラエル人が、舟でアメリカ大陸に移住していたという物語だ。
ただし金版は翻訳後、天使に返されたといい、現物は存在しない。また考古学的にもモルモン書を裏付ける内容は見つかっていない。まあ、宗教ってそういうものですよね。
迫害を受けた時期もあるものの、現代では190カ国以上に宣教師と支部を持つ、会員数1750万人の巨大組織に成長した。
そんな来歴の宗教だから、さぞ総本山も独創的なのかと思ったら、意外と合理的な建物ばかりだった。それほど古くないこともあり、結婚式場のような印象である。思っていたのと違うなあと街を歩いていると、丘の上に巨大な宮殿のような建物を見つけた。
当然、モルモン教の施設だろうと考えて近付くと、何と州議事堂だった。巨大なドームを有するネオクラシカル様式の白く輝く建物で、モルモン教の総本山よりも、よっぽど宗教的な建築物に見えた。しかもそれが街を見下ろす位置に立っているのだ。
なるほど、これがアメリカなのかと一人で合点する。つまり「民主主義」が上位にあり、その下に宗教があるという関係だ。もともとモルモン教徒が開いた街だが、市街地を一望できる高台に議事堂が建設されたのは、「宗教から世俗権力への移行」を象徴する意図もあったのではないか。アメリカにとって一番の宗教とは民主主義と言ってもいいかもしれない。
政治権力の中心であるワシントンD.C.なども、さながら宗教都市のようだ。例えば巨大なリンカーン像。大理石の神殿に祭られたリンカーンは、ただの元大統領というよりも、さながら預言者であり聖人である。ナショナル・モールは巡礼路のようだし、ワシントン記念塔は神へ祈りを捧げるオベリスクのようだ。
今、アメリカではその民主主義という宗教が破壊されかかっている。そんな論調のニュースを見る機会が増えた。確かにトランプ大統領は自身をナポレオンになぞらえた画像をSNSに投稿して物議を醸した。宗教に代わることができるのは宗教だけだといわれる。民主主義の次にアメリカは何を信じることになるのだろうか。トランプは神になるのだろうか。






