「ちりばめる」を「散りばめる」と書いたらダメなのか問題…“ことばの番人”が頭を悩ませる日本語表現の“最適解”
皆さんこんにちは。新潮社校閲部の甲谷です。
今回もクイズから始めます。
以下の文章の中から、明らかな文字の間違いを5か所見つけてください。制限時間は15秒です。では、どうぞ!
「散りばめる」はOK?
さて今回は、日本語表現の話をしたいと思います。
皆さんは、「ケーキにトッピングをちりばめる」などのように使われる「ちりばめる」という動詞を漢字で書く場合、どのようにお書きになるでしょうか?
「散りばめる」と書く方が多いと思います。しかし、本来の表記としては「鏤める」、もしくはひらがなで「ちりばめる」と書くのが正しいとされているのです。
実は私自身も、校閲の仕事に就くまでこのことを知らず、先輩のゲラを見て初めて「散りばめる」には、校閲疑問を出すものだということを学びました。こうした「校閲あるある」は他にもたくさんありますが、「ちりばめる」はその最たる例と言っていいでしょう。
しかし、言葉は移り変わるものですよね。果たして本当に、今でも「散りばめる」ではダメなのでしょうか? 日本語表現に携わる者のはしくれとして、改めて考えてみてもよいのではないか、と今回はこの「ちりばめる」に的を絞って書いていきます(他の話題をちりばめることなく……)。
色々なツールを使って用例を探す
そもそも、「散りばめる」という表記は日常的にもよく見かけますし、パソコンの変換でも出てきます(パソコンの変換で出てくるから日常的によく見かけるのかもしれませんが……鶏が先か、卵が先か)。
世の中で、ある語句や表記がどのくらい普及しているかを確認するツールの一つとして「コーパス少納言(https://shonagon.ninjal.ac.jp/)」というものがあります。これは文部科学省などが提供している用例検索サイトで、書籍や新聞、webサイトでの言葉の使われ方を確認することができます(ただし、2005年頃までのデータにとどまっており、最新の用例は収載されていません)。
この「コーパス少納言」で「散りばめる」と検索すると、1994年~2003年の書籍で8冊に、「散りばめる」の用例があることがわかりました(その中に、弊社の本も1冊ありました)。
また、GoogleやYahoo!などの検索エンジンで「散りばめる」を検索する際に、単語の両端に「“」(ダブルクォーテーション)をつけて「“散りばめる”」と検索すると、完全に「散りばめる」だけを使った文章を検索することができます。これは「フレーズ検索」と呼ばれる方法で、私も仕事で多用しています。政治家や芸能人の人名などを検索するとき、間違いに気づきやすくなります。
このフレーズ検索を使うと、「散りばめる」はYahoo!で26万件ものヒット。また、「リアルタイム検索」を使っても、SNSで「散りばめる」という表記を使用して投稿している人は非常に多いことがわかります。
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