次の韓国大統領も「日本のせいで中国包囲網には加われない」と責任転嫁する――すでに張られた“伏線” 鈴置高史氏が読む

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「日本と仲良くしたい」

――李在明氏は「日本と仲良くしたい」と繰り返し表明しています。

鈴置:それこそが見え透いた騙しのテクニックです。5月20日にもオンライン懇談会で以下のように述べています。中央日報の「〈韓国大統領選〉李在明候補『日本に敵対的というのは先入観…仲良くしたい』」(5月21日、日本語版)から引用します。

・私が日本に敵対的だという先入観がある。民間交流で日本と経済的に協力するのがどれほど重要なことか。ところが、それを今誤解している。私は本当に日本と仲良くしたい。

 ところが次のようにも語っています。

・日本の政治と日本の国民は違う。

 米国は韓国の真意と手口を見抜いています。「日本との関係が悪いから安保協力ができないなんて嘘だろ。本当は中国と敵対するのが怖いんだろ」と韓国に対し言ってくるのは確実です。

 そこで、今から「自分が反日なんて誤解だ。日本人は大好きだ。ただ、日本政府が強情で謝罪しないので困っている」と強調しておく必要があるのです。

 日韓関係を良好に保つことで中国包囲網を完成したい米国。その目の前で「日韓どちらが関係を悪化させているのか」を決めるゲームが始まったのです。石破首相が気が付いているかは分かりませんが。

日韓初、陸軍種の合同訓練

 興味深いニュースがありました。5月13日、陸上自衛隊が韓国の海兵隊と初めて合同訓練を行うと発表しました。6月上旬からフィリピンで実施する日米比韓の災害救難訓練が舞台です。

 日韓としては初の陸軍種の合同訓練で、日本とフィリピンのボートに韓国兵も乗る予定でした。災害訓練の形をとりますが、本当の狙いは中国の侵攻に備えた離島奪還訓練と思われます。

 ところが韓国海兵隊は同日、直ちに「米国・フィリピン軍とは合同訓練を進めるが、日本の陸上自衛隊とは合同訓練をしない」「韓国海兵隊が自衛隊と同じボートに同乗することはない」と声明を出したのです。

 次期大統領の可能性が最も高い李在明候補は「韓米日の安保協力は重要」と口では言っている。しかし本音は全く逆なことは、韓国人なら誰もが知っている。

 韓国海兵隊は次期大統領に叱られないために「日本とはたまたま訓練場所が同じだった」との苦しい言い訳を考えついたと思われます。

米国が怒って出て行けばしめたもの

――いくら「日本のせい」と言い張っても、韓国が同盟の義務を放擲したら米国は怒りだしませんか。

鈴置:「李在明政権」はそれも織り込み済みでしょう。

――米国は怒って在韓米軍を撤収するかもしれません。

鈴置:それこそ左派の願っていることです。より本格的な米中等距離外交が実現するわけです。米軍が出て行くと言うなら、親米派の保守も引きとめようがない。そもそも保守だって日本に謝罪させたいのは同じなのです。

 北朝鮮との和解も進む、と左派は考えます。米国が朝鮮半島に軍隊を置くことで民族を分裂させている、というのが左派の世界観ですから。

「李在明の韓国」が北東アジアの構造を大きく変えるのは間違いありません。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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