次の韓国大統領も「日本のせいで中国包囲網には加われない」と責任転嫁する――すでに張られた“伏線” 鈴置高史氏が読む

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 次期大統領の最有力候補、李在明(イ・ジェミョン)氏が「反米従中」の本性を現し始めた。もちろん米国は怒る。そこで「米国側に立てないのは歴史問題を反省しない日本のせいだ」と言い訳する作戦に出ると韓国観察者の鈴置高史氏は見る。

米国の敵に内通する李在明

鈴置:李在明候補の外交に関する発言はカメレオンのように変化します。もともと韓国では極め付きの反米従中派と見なされていました。日本からの解放の立役者と見なされてきた米軍を「占領軍」と呼び、物議を醸したことがあります。

 最大野党「共に民主党」の代表というのに、駐韓中国大使に呼びつけられて中国大使館まで出向き「外交儀礼に反する卑屈な姿勢」と韓国の保守系紙から厳しく批判されたこともあります。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する1回目の弾劾訴追案でも、「共に民主党」は理由に「大統領が北朝鮮、中国、ロシアに敵対的であり、北東アジアで韓国を孤立させ、あまりに親日的である」ことを挙げました。

 これを見た米国は李在明氏と「共に民主党」に対する疑念を深めました。例えば、米下院外交委員会で東アジア・太平洋小委員会の委員長を務めるY・キム(Young Kim)議員(共和党)は「共に民主党」こそは米国の敵への内通者と主張したのです。

「The Hill」の「US-South Korean alliance vital for Indo-Pacific security」(1月6日)のポイントを訳します。

・韓国では大統領弾劾を主導する党派を含め、いくつかの党派が米韓同盟と米韓日の三角協力を壊そうとしてきた。
・中国共産党や北朝鮮政権といった我々の敵は、我が同盟の弱みにつけ込んで不安定な状況を利用する方法を模索している。韓国における政治的不安定と反米プロパガンダの高まりは我々の敵に青信号を灯す。

慌てて「親米路線」に転換のフリ

 韓国人の米国に対する感情は複雑なものがありますが、大統領選挙では米韓同盟を否認する候補は勝てません。北朝鮮と対峙する以上、米国との同盟は必要不可欠と考える人が多いのです。どの世論調査を見ても国民の90%前後が同盟の存続を望んでいます。

 米国の厳しい反応はY・キム議員の寄稿以前から高まっていましたが、李在明氏はそれを見て慌てて親米路線に転じました。2024年12月23日には駐韓米国大使と会い「韓米日の協力関係は続く」と述べ、尹錫悦政権が力を入れてきた3カ国の安保協力体制を引き継ぐと約束しました。

 同月26日には駐韓日本大使にも会って「私は日本に[対する]愛情が深い」と語りました。少し前まで「日本は敵性国家」と決め付けていたのと比べ、180度の変わりようです。

 2025年1月17日には「自由・民主陣営の一員としての役割・責任を一層強化する」「韓米同盟はさらに強化されるだろう」と、「共に民主党」の会議で述べました。

 保守系紙、朝鮮日報は「『中国にシェシェ』と言っていたのに今度は『米国に感謝』…李在明の最大のリスクは外交」(1月20日、韓国語版)で、身代わりの速さを痛烈に皮肉りました。

台湾有事には中立

 もっとも、「にわか親米」の寿命は短かった。大統領選挙の世論調査で李在明候補が圧倒的に有利との結果が出ると、米中等距離外交を再び打ち出して「先祖返り」したのです。

 5月13日、李在明候補は大邱(テグ)での遊説で「中国にもシェシェ(謝謝=ありがとう)、台湾にもシェシェ。台湾と中国が喧嘩しようがどうしようが、我々と何の関係があるのか」と語りました。

「中台双方にシェシェ」は2024年3月以来の李在明候補のキャッチフレーズで、中国の台湾侵攻の際、米国が台湾支援に乗り出しても韓国は協力すべきではない、との主張です。台湾防衛に在韓米軍の兵力を投入させないとの含意もあります。

 当然、保守から「米国との同盟を壊す」と非難されてきました。それもあって選挙戦では封印してきましたが、ついにこの日「シェシェ発言」を再開したうえ「[私は]間違ったことを言ったか?」と開き直ったのです。

 朝鮮日報は「シェシェ発言」的な姿勢が米国との同盟に亀裂をもたらすと警告しました。ワシントン特派員の金隠仲(キム・ウンジュン)記者が米国の朝鮮半島専門家8人に緊急インタビューしたほどです。

李の『シェシェ発言』に米専門家たち『朝鮮半島と台湾は別々でない』」(5月15日、韓国語版)は「台湾防衛に協力しないというなら米韓同盟の存続に疑問符が付くぞ」といった米識者の声を紹介しています。

 しかし、当選に自信を深めた李在明候補は馬耳東風。米国からの警告を完全に無視しました。5月18日には有力候補のテレビ討論会で「米国や日本との安全保障面での協力は必要」としつつも「台湾有事に我々があまり深く関与しすぎる必要はない。距離を保たなくてはいけない」と改めて「有事の中立」を主張したのです。

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