なぜ算数の得意な子どもは中学受験で有利なのか プロ講師がむしろ「国語」を重視する理由…「年々低下している子供たちの能力」とは
出生数が70万人を下回る急速な少子化が進む中、首都圏エリアの私立・国公立中学を目指す受験生の数は、増加の一途を辿っている。そればかりか、中学受験の低年齢化も進んでおり、小学校低学年のうちから塾通いを始めるケースも珍しくなくなった。
親世代が中学受験生だった1980年代中盤から、国語の講師として中学受験生の指導にあたってきた龍馬進学研究会(千葉県船橋市)の安本満氏に、令和の中学受験生を取り巻く現状や、子供の中学受験を考えている両親に伝えたい思いについて語ってもらった。(3本中3本目)
【写真】「時代が移り変わる中で、予備校に求められる役割も変わるべき」と語る安本氏
中学受験の実績
2025年の首都圏中学入試における受験者の総数は5万2300人で、前年より100名ほど減ったものの、受験率は18.1%を記録。首都圏の中学受験の競争は年々激しさを増している。
一方で受験生を迎え入れる予備校業界に目を移すと、2024年に倒産した学習塾(※中学受験以外も含む業界全般を指す)は53件で、前年比の17.7%増。成績上位生徒の奪い合いや業界内の生存競争にも拍車がかかっている状況だ。
子供の中学受験を考える両親は、各予備校の説明会に出向き、合格実績やカリキュラムを比較しながら徐々に受験に向けた準備を進めていくことになるが……。
最上位校の合格実績に注目が集まりがちな業界の現状に、安本氏は警鐘を鳴らす。
「たくさんの合格者を輩出している塾では、もの凄く特別な指導をしているように見えます。実際のところ、各塾が用意しているカリキュラムの本質や、合格に必要な勉強量にさほど差はありません。それなのになぜ大手予備校は、上位校に多くの合格者を輩出できるのか。その1番の理由は、合格者数の評判によって、多くの優秀な生徒を囲い込むことができているからです」
カリスマ講師が語る予備校業界の闇
かつての安本氏も大手予備校の国語科に勤務し、男女の御三家に200名以上の生徒を輩出したが、「その“営業主義”と上位校の合格者数ばかりに目を向ける価値観に染まりきっていることに不平等さを感じた」ことから、安定した地位を捨てて独立を決意。1999年に龍馬進学研究会の設立に至った。
「多くの成績上位の生徒を迎え入れたら、数年後に自ずと良い結果が生まれ、その合格実績に引き寄せられた下の世代が新たに入塾し、再び名門校の合格を手にしていく。数十年前に作られた“営業主語”が延々と続いているのは、教育の根幹が立身出世の手段であるという歪んだ昔の哲学があるからです」
近年では、最難関とされる灘中学(兵庫県神戸市)、開成中学、筑波大附属駒場中学の3校すべてに合格することを「グランドスラム」と呼ぶようだ。合格者数を讃える風潮にさらなる拍車がかかっているように思われるが……。
「でも、冷静に考えれば『努力をすれば誰でも大谷翔平になれる』と思っている大人はいないでしょ。素質に並外れた努力が加わって『大谷翔平』が誕生しているから、リスペクトされるわけです。でも、プロ選手になれなかった高校球児はダメなんですか?それと同じ価値観が中学入試にあるように思います。大谷選手がメジャーリーグで自分を試すのならわかりますが、塾に唆されて通わない灘中学を目指すのはただの広告塔でしょう」
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