なぜ算数の得意な子どもは中学受験で有利なのか プロ講師がむしろ「国語」を重視する理由…「年々低下している子供たちの能力」とは

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合格の祝い方も変化した

 難関校の合格者数に注目が集まる一方で、その実績の発表方法は、時代の移り変わりとともに大きく変化した。多くの親世代が中学受験生だった1990代には、受験のシーズンを終えると、予備校の正面玄関に合格校と生徒の名前を書いた紙が一斉に張り出され、個人名の書かれた折り込みチラシが各家庭に配られることも一般的だった。

 だが、2003年に個人情報保護法が制定(2005年に全面施行)された頃から状況は変わり、現在は合格校や人数のみを発表することに。

「確かに個人情報に配慮する必要はあるのかもしれない」とした上で、安本氏は時代の移り変わりとともに感じるようになった寂しさについて口にする。

受験生だった頃を懐かしんでもらえるように

「かつては、第一志望校に合格して自分の名前を堂々と貼ることが、子どもたちを机に向かわせるモチベーションになっていたのも事実です。合格は本当に喜ばしいことですが、最近は個人情報を保護する必要が出てきている。当時の姿を知る僕としては、まるで喜びを隠さなければならない、あるいは第一志望ではない合格校を隠して知られないようにするのが当然で、進学校を誇れなくなってしまうような社会の雰囲気を残念に感じることもあります」

 さらに安本氏はこう続けた。

「僕らは志望校の合格だけでなく、生徒たちに『勉強は大変だったけれど、楽しい思い出がいっぱいある』と言ってもらえる時間になるようにと、日々の指導にあたってきました。時代が移り変わる中で、予備校に求められる役割も変わるべきだと思います」

講師の目で見た学力低下

 難関中学合格を目指す子供たちの争いは、毎年熾烈になってきているが、その一方では月に1冊も本を読まない人の割合が62.6%(2023年「国語に関する世論調査」より)を占める世の中になり、その煽りを受けて、子供たちの読解力の低下も進んでいる。

 40年ほど前から教壇に立って受験生の指導にあたってきた安本氏は、「最上位層の生徒に関しては、さほど実力に変化は見られませんが、偏差値70を下回る生徒たちに焦点を当てると、その学力は年々低下しているように感じています」と子供たちの学力の変化に言及すると、それと反比例するように難化を続ける中学入試の問題についても、見解を述べた。

「年々子供たちの読書量が減っていて、国語力も落ちているはずなのに、中学入試では、高い語彙力が求められる“超長文”の出題が当たり前になりました。近年の中学入試では小学生向けに書かれた文章は物語文の一部に見られる程度で、それ以外はすべて大人向けの作品です。偏差値の面では“中堅校”と呼べる学校でも、『大人でも理解が難しいのでは?』と思える文章が出題されているので、講師としては『どこまで生徒の読解力を伸ばしていけばよいのか?』について、悩まされる場面が増えてきています」

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