「自決を暗に予告して大笑い」「豚骨ラーメンのように濃厚な作品」 三島由紀夫生誕100年 著名人たちが語り尽くした「スター性」とオススメ作品

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【前後編の後編/前編からの続き】

 今年は三島由紀夫生誕100年にあたる。小説から戯曲、評論にいたるまで、希代の天才は幅広いジャンルにわたって数々の傑作を残し、今日まで多くの人々に読み継がれている。三島を愛する各界識者に「私の好きな作品」について、その魅力を語ってもらった。

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 前編【東出昌大は「三島を読んでいなければ今の自分はなかった」 三島由紀夫生誕100年…著名人たちが語り尽くす魅力とオススメ作品】では、これまでに三島の複数の作品を演出してきた演出家・宮本亞門氏や、作品をバイブルにしているという俳優・東出昌大氏らにオススメ作品について語り尽くしてもらった。

――まずは、高校時代に文化祭の出し物で『わが友ヒットラー』の演劇を監督、脚本を担当したこともあるという、東大先端科学技術研究センター教授の牧原出氏から。

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 高校時代、谷崎潤一郎、丸谷才一と併せて、三島の『文章読本』を読みましたが、他の二作はいい文章を書くためのものですが、三島は文章を味読するための方法論。そこに引かれました。文章には短編、長編、戯曲、詩と四つの基本的なジャンルがあり、それぞれの特性を三島らしく明晰に解説している。私が詩と戯曲を読み進めるきっかけでした。

 三島は、凝り固まって一つのジャンルしか書けない作家を評価しません。彼自身はオールラウンダーで何でも書きました。分かりやすく文章美学を説く姿に見られる、近くて遠い感じが三島の良さでしょう。学生にも薦めていますが、今でも古びていない名作です。

 高校2年(筑波大附属駒場高校)のときの文化祭で、私はクラスの出し物として演劇の監督と脚本を担当しました。その時選んだのが『わが友ヒットラー』でした。この作品は、4人の登場人物の類型がはっきりしており、美文調のセリフが、未熟な高校生の演技を支えてくれます。背が高くてちょっとニヒルな同級生がいて、ヒットラー役にぴったりでした。ヒールが主役なのが、結構受けたようです。

「保守政治家、革新系運動家の匂い立つような存在感」

 印象的なのは最後に極右の突撃隊リーダーのレームと極左のシュトラッサーを粛清する場面。この大粛清から本格的な国家社会主義へと展開する政権を予感させつつ、「政治は中道を行かなければなりません」とのセリフで終わるのですが、私は高校生に刺さるよう、運命と狂気といったモチーフで大胆に書き換えました。公演は大成功で、それを見たらしい後輩がこの演目を再演してくれました。

 政治学者としては、戦後の保守政治を描き切り裁判にもなった『宴のあと』を絶品として推します。保守政治家と革新系運動家の匂い立つような存在感が時代の生の証言となっています。

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