最年少17歳で受賞 「とにかく三島由紀夫が好き」スマホ入力で書き上げたZ世代の「美」の物語【新潮新人賞受賞者インタビュー】
【第55回新潮新人賞受賞】伊良刹那(いらせつな)
――新潮新人賞史上最年少、17歳(選考会当時)での受賞となりました。
受賞作の「海を覗く」は、高校2年生の美貌の青年・北条司と、彼にひかれる同級生の速水圭一らが織りなす群像劇ですが、観念論的な「美」についての会話が差し挟まれたりと、普通の青春小説とは随分異なる印象です。なぜこの小説を書こうと思われたのでしょうか。
とにかく三島由紀夫が好きで、あんな美しい文章を書いてみたいと思った、それにつきます。また、自分が美醜について、どう感じるのかを探りたい、言語化したいという思いもあったので、観念的な会話の部分は書いていても楽しかったです。
速報国民・玉木代表「大平元首相と親戚」の怪しすぎる説明 事務所すら正確に把握できない関係性
はじめは速水と北条だけの物語にするつもりでした。美しい人物と、その美にひかれるのであれば美術部の所属が一番かなと、まず二人の人物を設定しました。
それから組み合わせが男女だと簡単すぎるし、性別を超えた美しさのようなものを表したかったので、あえて性別はそろえて男性同士にしました。男性にしたのは、自分が男性なのでその方が書きやすかったから。二人を高校2年生にしたのも、執筆当時の自分と同じ年齢の方が書けるだろうと思ったからです。やはりどうしても経験値が足りませんから。
でも、速水が美について考えていることに同意してくれる、あるいはぶつかる人物として美術部部長の矢谷始を出したら、どんどん掘り下げていくことになり、矢谷の彼女の七瀬唯や、醜いと描写した棚橋美穂など、他の登場人物も生まれてきました。書き始めた当初は速水が北条に幻滅するところで終わらせようと思っていたのですが、そうもいかなくなり、最終的にあの着地点になりました。僕自身はバッドエンドではないと思っていますが……。
――ラストの場面は映像的で美しく、印象的でした。舞台となった奄美大島には実際に修学旅行で行かれたのでしょうか?
いいえ、行ったことがないんです。でも、舞台としては、何となく南の島がいいなと思って、それなら沖縄か奄美大島かなと。実際に旅した方の旅行記サイトや、観光協会のHPなどを参考にしました。奄美大島から屋久島へ行くフェリーがあること、その出発時刻、航行時間、フェリーの室内の様子や、甲板の映像などもアップして下さっている方がいたので助かりました。
――原稿用紙で250枚近くになるこの作品をすべて、スマホで書かれたとか。
はい、フリック入力で、メールを打つ時みたいな感じで書きました。奄美大島のことなど、調べものも全部スマホです。傍目にはソファでスマホをいじっているだけに見えたかもしれません(笑)。
書き始めたのは去年の秋からで、1月中旬には大体出来上がり、推敲して2月頭ごろに完成しました。修正もすべてスマホでやりました。
――執筆時、難しかったところはどこでしょうか?
とにかく経験値がないので、あれこれ調べなければならないですし、観念論以外のところ、学校の場面、普通の会話部分などはきつかった箇所もあります。でも一番難しかったのは、三島に寄せ過ぎないようにしなければならなかったところでしょうか。といっても好きなので、やはりにじみ出てきてしまうのですが。
それから自分とは違う性なので、女性を描くのも難しかったです。ちなみに男女問わず、どの登場人物にもモデルはいません。矢谷も完全に自分のイマジナリーフレンドですね。僕の周りにはいないタイプ、実際にいたら嫌な奴だなと思います(笑)。
――三島との出会いはいつ頃でしょう? 一番好きな作品は何ですか?
最初に三島作品と出会ったのは、高校1年生の夏です。書店で手に取ったのが短篇集の『真夏の死』でした。文章がいい、とにかくきれいだと思いました。通学の電車の中で読んでいました。短篇集なので、いろいろな作品が読めたのもよかったですね。
そこからはまってさまざまな作品を読みましたが、一番好きな三島作品……う~ん、難しいですね……どれだろう……単体作品としては『鏡子の家』ですかね。あの世界というか、空気感が好きなんです。それから単体でなければ、やはり『豊饒の海』4部作の『暁の寺』です。美貌の人物として設定した北条司の北条は『豊饒の海』の「ほうじょう」から、司はタイトルの「覗く」の部首の「見」をとりました。同姓同名の漫画家さんがいらっしゃることは、不勉強ながら知りませんでした。
――同級生同士で小説の話をすることはありますか?
みじんもないです。本当は読書好きの友達も中にはいるのかもしれませんが、小説の話をしたことはないですね。漫画やアニメ、ゲームの話をすることはありますが……僕自身、小説を読んでいる、書いていると話したことは一度もありません。
ただ、父が読書好きなので、たまに何かしら貸してくれます。父は太宰派で、僕が中学生の時に『人間失格』を渡されたことがありました。中学生にもよくわかるというより、中学生だからこそ共感する部分も多くて、苦も無く読めましたが、やっぱり自分は三島派です。
映像作品で自分でも影響を受けているなと思うのは、Netflixの「ブラック・ミラー」(2011)というイギリスのオムニバスドラマです。これも父に誘われて家族で観ました。
――ディストピアというか、イギリス独特のブラック・ユーモアが利いたドラマです。家族で観るというのは珍しいかもしれませんね。新人賞に応募することは伝えていましたか?
新人賞に応募したことは親にも友達にも、誰にも言ってませんでした。受賞してはじめて親に伝えたら、喜んでくれましたね。
「作家」になりたいという強い意志を持っていたというより、まず書いてみたい文章があり、書いてみたい物語があった、だから書いたというのが近いです。そしてそれは今後も自分の中にあり続けるのだろうと感じています。
(了)