「自決を暗に予告して大笑い」「豚骨ラーメンのように濃厚な作品」 三島由紀夫生誕100年 著名人たちが語り尽くした「スター性」とオススメ作品

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「何言ってるんだこの人」と思ったけど……

――作家の中村文則氏は三島作品の「濃厚さ」を豚骨ラーメンに例えながら、その魅力を語ってくれた。
 
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 三島由紀夫を初めて読んだのは大学生の時。定番ではあるけど、『仮面の告白』『金閣寺』を時々読み返す。

 定番には、やはり力があると思う(関係ないが、だるそうにしていた犬が、鎌倉の大仏を見て急に興奮したのを見たことがある)。どちらの作品も主人公は暗部を抱え、その内面世界と外の世界(社会・人生)の接触がテーマになっている。こういう暗い構図はたまらない。

 文学は年月を経て読み返すと印象が変わるが、逆もある。『金閣寺』で主人公の友人・柏木が高齢の女性と関係し童貞を失う描写があり、初めて読んだ時は、あまりに抽象的で――読んだ人は分かると思うけど――さすがに観念的過ぎて、ちょっと引いた。

「欲望は仮象にすぎぬ。そして見る俺は、仮象の中へ無限に顛落しながら、見られる実相にむかって射精するのだ」

 作家になって読み返しても「何言ってるんだこの人」と思ったし、昨年読み返した時は「観念爆発」と思った。濃過ぎる豚骨ラーメンは旨いが胃もたれするというか、濃過ぎる三島も目がチカチカするというか。

 そんな部分はあるけど、どちらも名作で染みる。

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 前編【東出昌大は「三島を読んでいなければ今の自分はなかった」 三島由紀夫生誕100年…著名人たちが語り尽くす魅力とオススメ作品】では、これまでに三島の複数の作品を演出してきた演出家・宮本亞門氏や、作品をバイブルにしているという俳優・東出昌大氏らにオススメ作品について語り尽くしてもらっている。

週刊新潮 2025年5月1・8日号掲載

特別企画「三島由紀夫生誕100年 『私の好きな三島作品』」より

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