コメ最高値更新のウラで財務省が密かに進める「農政改悪」 専門家が警鐘「もし不作が起きたら…」「海外からの輸入にも頼れない」
農業生産力が衰えたから
では、経営局長が言う、国民が米を食べなくなったから自給率が下がったという説明は、果たして正しいのだろうか。
戦後の高度経済成長で国民の生活が豊かになり、米の消費が減って肉類の消費が増えた。そのために大量の飼料穀物を輸入したことが自給率低下を招いたのは事実だろう。ところが、現在の若い人は昔の人のように大食漢ではないし、日本の人口が減少して高齢化が進んでいて食料の消費量が減っているから、本来ならば自給率は上がるはずなのだ。では何が自給率低下の原因なのか。
農水省「食料・農業・農村政策審議会」で会長を務め、基本計画をまとめた一人である中嶋康博東京大学大学院農学生命科学研究科教授は、2000年以降の変化を次のように説明している。
〈(今世紀に入ると)1人当たりカロリーも人口も減少するようになり、消費面では自給率を引き下げる要因はなくなった。それでも自給率が向上しなかったのは、1980年代後半以降は産出額が低下し続けているからである。このように産出額が低下しているのは、労働や農地、投資が減少し続けたために、農業生産における総投入が大きく低下したからである〉(「月刊NOSAI」2023年8月号)
その原因として〈農業の収益率は低いまま〉だから、農業者や農地の減少が止まらなかったと指摘しているのだ。働いても働いても時給10円ともいわれるような米作りを放置してきたのがその典型だ。自給率が低下したのは、国民が米を食べなくなったからではなく、農業生産力が衰えたからだとなれば、政府の農業政策に問題があったとなる。なぜこれが基本法に反映されなかったのか。
なぜ自給率向上をあきらめるような法律に
農水省が基本法の見直しを始めたのは2022年、ロシアのウクライナ侵攻から約半年後である。〈食料安全保障への懸念〉(同前)があって審議が始まったそうだが、あの時期なら当然だろう。それなのに、なぜ自給率向上をあきらめるような法律にしたのか。
基本計画では、「食料安全保障」が〈「国民一人一人の食料安全保障」を確保〉という言葉に変わった。これは似て非なるものだと田代氏は言う。
「食料安全保障と国民一人一人の食料安全保障は、言葉は似ていますが、意味はまったく違うのです。一人一人の食料安全保障自体は大切ですが、語義からすればアメリカ産であろうとカナダ産であろうと、国民一人一人が食べられたらよしとなります。そうではなく、まず自給率向上で国内生産を確保した上での“一人一人”であるべきなのです」
基本計画が「国民一人一人の食料安全保障」の例に挙げたのは、移動手段を持たない高齢者などの買物困難者や経済的に困窮している人のフードバンク、それにこども食堂などだ。それはそれで重要だが、自給率とは直接の関係はない。どちらかといえば、平時における社会政策のようなものだ。農水省の仕事というより、厚生労働省の管轄ではないだろうか。
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