コメ最高値更新のウラで財務省が密かに進める「農政改悪」 専門家が警鐘「もし不作が起きたら…」「海外からの輸入にも頼れない」

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〈輸入可能なものは輸入〉でいいのか?

 あらためて財務省の「建議」を読み直し、これまでの政策と違う箇所を要点にして抜き出してみた。

 これまで食料自給率は重要な政策目標だったが〈食料自給率のみを過度に重視することは不適当と言わざるを得〉ない。なぜなら自給率を1%上げるのに〈畑地で400~500億円程度、水田で800~900億円程度の国費が必要〉で負担が大きい。食料が不足するなら〈政治経済的に良好な関係の国からのものであ〉れば問題はないから〈輸入可能なものは輸入〉すればいい。備蓄米も保管経費など(400~600億円)が大きく、備蓄量を見直すべきである――。

 これを要約すると、

(1)自給率は数ある目標の一つに過ぎない。

(2)食料が足りなければ友好国から輸入すればいい。

(3)財政負担が大きい備蓄は減らすべきである。

 (1)と(2)は改正基本法にも似た記述はあるが、(3)に関しては〈備蓄の確保を図る〉とあるだけで「見直す」とは書かれていない。ともあれ、これらが政策として実行されれば日本の食料事情が変わるだろう。それが私たちの食生活にどんな影響を与えるだろうか。

60年で自給率は35%ほど低下

 日本の食料自給率(カロリーベース)が38%と低いのはよく知られているが、実はどこの国も自給率を発表しているわけではない。日本以外では韓国や台湾、スイス、ノルウェー、イギリスなどは発表しているが、必ずしも計算方法が日本と同じではない。カナダやアメリカのように食料自給能力に余裕がある国は発表していない。農水省のサイトで各国の自給率を比較しているが、これは同省が試算したものだ。もちろん自給率にこだわる必要はないという意見もあるが、「台湾有事」のような不測の事態を考えれば、国として食料供給力を把握しておくことは必要だろう。

 1965年度に73%だった日本の自給率は、今世紀の入口に40%まで低下し、その後もゆるやかに低減してきた。農水省は、2030年度までに45%にする目標を設定したが、向上しないまま38%前後の低空飛行が続いている。今も目標は取り下げていないが、4月に閣議決定された基本計画では、自給率を農業政策の「目標の一つ」に格下げしたのだ。その理由について、昨年7月、改正基本法の説明会で農水省の経営局長はこんな解説をしている。

「自給率の低下で一番大きな原因は米の消費減少です。米は100%国内で生産しています。自給率の高い米のカロリー摂取が減れば減るほど自給率が下がるという構造なのです。毎年、米の消費が減っていますから、今後も自給率低下の傾向は変わりません」

 国民の食生活が変化して米を食わなくなったから自給率が低下したのだという説明である。どんな検証をしたのか不明だが、国民の嗜好で数値が変わるなら、政策目標にはなり得ない。自給率が格下げされた理由を、農業経済学者で横浜国立大学名誉教授の田代洋一氏に解説してもらった。

「国民の食生活が変化して米を食べなくなったので自給率が落ちたとなれば、財務省は農水省に予算をくれないでしょう。日本の国家予算は膨らんでいるのに、農林水産予算の割合は25年前の4%から2%と半分に減っているんです。2%を切ったら省として存続する意味が問われかねません。官僚は予算が命ですから、自給率では予算が取れないと判断したのでしょう」

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