“非加熱製法”で“保存料ナシ”なのに「賞味期限2年」 老舗「トキハソース」100年の試行錯誤から生まれた“生ソース”の魅力

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 東京都北区滝野川7丁目――池袋まで徒歩15分ほどのこの地で、100年前から〈ソース〉がつくられていると聞いたら、驚かれる方もいるのではないだろうか。しかも、店頭で一般販売されていないだけに、なおさらだ。

 その名は〈トキハソース〉(読みは「ときわそーす」)。2023(令和5)年に「創業100年」を迎えた老舗である。

「一度〈トキハソース〉をつかったら、ほかのソースはつかえない」というほどのファンがいる、独特な味わいのソースである。甘みと酸味、かすかな香辛料の刺激が、絶妙なバランスで口の中にひろがる。初めて味わう方は、いままでのソースのイメージが覆されるのではないだろうか。

 そんな“東京生まれ”のソースは、いかにして生まれたのだろうか。そして、「売っていない」なら、どうすれば、味わえるのだろうか?

《昭和100年を生き抜いた「東京の味」》第2回は、まさに“東京100年企業”の老舗、〈トキハソース〉をご紹介する。

そもそも「ウスターソース」とは

「弊社は、1923(大正12)年の関東大震災直後、コックだった小倉榮男が、東京・板橋の仲宿に『常盤商会』を創業したのがはじまりです」

 と語るのは、代表取締役の田口伊津子さん。創業者・小倉榮男の孫、つまり3代目である。

「小倉榮男は、震災後、人々が復興に向けてがんばっている姿を見て、〈食〉で励ましたいとの思いを抱いたそうです。このころは、洋食が、一般にも浸透しはじめた時期でした。特にカレーライスのほか、とんかつやコロッケといった揚げ物が人気を呼んでいました。しかし、そこにかける調味料は、まだほとんどなかったんですね。そこで小倉は、野菜をたっぷりつかったソースをつくるようになったんです」

 そもそも〈ソース〉とは、どうやってできるものなのだろうか? 田口社長の息子さんで、専務取締役の田口直樹さんが説明してくれた。

「単に〈ソース〉といったら、料理にかける液状やペースト状の調味料全体の名称です。ですからタルタルソースもベシャメルソースも、〈ソース〉の一種です。そのなかで、とんかつなどにかける、わたしたちが通常イメージするソースは、本来〈ウスターソース〉といいます。むかし、イギリスのウスターシャー州の州都ウスターの主婦が、野菜や果物の余りを、スパイス類と一緒に壺に入れて保存しておいたら、ドロドロの、おいしい調味料になっていた――これが〈ウスターソース〉のはじまりだといわれています」

 つまり、ウスターとは「地名」なのだ。「さらさらした〈薄い〉ソース」だと思っていた方もいたのでは? 日本では、この〈ウスターソース〉を略して、〈ソース〉と呼ばれるようになったのだという。

「基本的に〈ウスターソース〉は、野菜と果物からできています。それらを煮込み、煮汁を漉し、そこに塩、砂糖、酢、香辛料などを加え、味を調えます」(田口直樹さん)

 では、トキハソースの場合、ほかのソースと、どこがちがうのだろうか。

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