「実はオートロック付きマンションが狙われる」 トクリュウ強盗の意外なウラ側 元留置場看守が“犯罪者目線”で解説

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最低でもしておきたい対策は

 ところでトクリュウ事件は、実行犯が対象とする家屋の情報に乏しくともためらいなく押し入ってくる点で、これまでの犯罪とは本質的に性格が異なる。残念ながら、物理的に住居侵入を防ぐことは難しいのが実情だ。にもかかわらず、報道機関も防犯の専門家も従来型の窃盗や強盗と同列に扱っていることから、多くの人々が効果的な対策を見誤る危険性が高い。

 従来型の強盗事件が比較的少なかった理由は明確だ。法定刑が格段に重いため、犯罪者が「割に合わない」と判断していたのだ。一般的な窃盗犯は留守宅への侵入技術を磨き、空振りのリスクを背負いながら犯行に及ぶ。一方、強盗は住人に暴力を振るったり、凶器で脅したりするので高確率で財物を奪えるが、捕まった場合は重罪を免れられない。

 トクリュウは、この常識を根底から覆す。最大の特徴は実行犯が素人で、指示役の言うがまま犯行に及ぶ点だ。実行犯は素人ゆえに、現場での緊張感や恐怖心から、相手に過剰な暴力を振るいがちで、被害が深刻化する傾向にある。

 この根絶には素人の闇バイトへの応募を食い止めることが最も有効だが、背景には甘言に乗ってしまう人々の経済的困窮という社会問題がある。つとに言われる「失われた30年」の影響は、こんな形でも私たちの安全を脅かしているのだ。

 喫緊の対策は、在宅中であっても玄関や窓といった開口部の施錠を常にしておくことだが、それは当然として、最低でも前述の防犯フィルムの貼り付けくらいはしておきたい。これによって、侵入により時間がかかるようになるので、住人は気付きやすくなり、警察に通報する時間を稼げる。もちろん、これでも一定のリスクは残るが、自分や家族の生命を守れる可能性は格段に高まる。

 また、日本ではほとんど普及しておらず、既存の住宅への設置は難しいとみられるが、これから戸建てを新築する方であれば、自身や家族が中に避難して侵入者との接触を完全に防ぐことができる、外からは開錠できない“金庫”のような「パニックルーム」と呼ばれる一室を用意することも有効だ。

「水と安全はタダ」は過去

 犯罪には偶発的な事案がある一方、大半は犯人が自身の欲求を満たすために行われる。「いつ」「どこで」「誰に」「何を目的に」「どうやって」という具合に計画的にコトを進める。対照的に、ほとんどの被害者は「ある日突然、想像だにせず、被害者になる」のだ。

 地震などの天変地異は事前に察知して逃げることはできないが、その備えは誰にでもできる。窃盗やトクリュウ事件も同様で、効果的な対策に意識的に取り組めば、被害を避けることは十分可能だ。

 加えて「正しい防犯知識」も大切だ。それには「常識」とされてきた情報を疑うことが必要になる。かつては「水と安全はタダ」と言われた日本も、現在は共にコストがかかる時代だと認識すべきだ。防犯への取り組みは、多少の出費や手間暇がかかる。それでも、自身はもとより家族の生命や財産を守るためであることを忘れてはいけない。

折元洋巳
一般社団法人全国防犯啓蒙推進機構・理事長。大阪府警で20年のキャリアを持ち、留置場の看守として1000人以上の犯罪者の心理や手口を熟知した防犯の専門家。この経験を生かし全国各地で防犯啓蒙活動を展開。メディア出演多数。またSNS閲覧数180万超のインフルエンサーとしても活躍中。

週刊新潮 2025年4月10日号掲載

特別読物「元留置場看守が“犯罪者目線”で解説する 最新版『トクリュウ強盗』『空き巣』対策」より

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