「実はオートロック付きマンションが狙われる」 トクリュウ強盗の意外なウラ側 元留置場看守が“犯罪者目線”で解説

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地上10階以上であっても……

「わが家は3階だから大丈夫」「高層階なら心配ない」

 これらはマンションに住む方たちから、何度も聞かされた言葉だ。確かにベランダをよじ登ってくる泥棒はまれだが、その考えにはより深刻な問題が潜んでいる。

 マンションのベランダにある「隣戸との仕切り」を見落としているのだ。ベランダは消防法により、緊急時の避難経路として確保する必要があり、そのため仕切りは簡単に蹴り破れる構造になっている。当然、この仕切りを強固な作りにすることは認められない。

 以前、とあるマンションの自治会から窃盗被害の現場確認という依頼を受けた。そこで私が目にしたのは、あまりに衝撃的な光景だった。上層階のベランダの仕切り板が端から端まで破壊されていたのだ。泥棒は何らかの方法で、玄関から一室に侵入した後、ベランダの仕切りを破って隣戸へ移動することを繰り返し、フロアすべての居室に侵入していたのである。ずいぶん荒っぽい手口だが、この手口なら地上10階だろうが20階だろうが、同じ被害に遭う可能性がある。

 では、対策はどうあるべきか。答えはシンプルだ。マンションの場合は個別の対策ではなく、すべての玄関の防犯対策を徹底することだ。一戸も玄関からの侵入を許さなければ、ベランダ経由の被害も防げる。いまからでも、マンションにお住まいの方は、組合などで話し合ってみてはいかがだろうか。

複数の鍵が効果的

 世界でもトップクラスの技術を持つ日本の鍵メーカーは、常に泥棒の新手口を研究し、即座に対策製品を開発してきた。「日本の安全を守る」という強い使命感の下、次々と高性能な防犯鍵を生み出している。その代表格が、複雑な構造を持つディンプルキーだ。交換費用はおよそ3万円程度である。

 ところが、優秀なはずのディンプルキーは別の問題を引き起こしている。窃盗犯はこの防犯能力の高さから、鍵穴を標的としない方法を取るようになっているのだ。

 警察庁の統計によると、住宅への侵入手口の主流は「バール破壊」や「サムターン回し」など、鍵穴そのものを標的としない方法に変化している。先に触れたトクリュウが用いるのも、主にこれらの手法だろう。

 一般に、窃盗犯は高度な技術で守られた鍵穴を破るより、他の侵入方法を選ぶ方が効率的だと判断する。

 では、どんな玄関対策が効果的なのか。結論は警察がかねてから推奨している「ワンドア・ツーロック」ないし、「スリーロック」に行き着く。複数の鍵を設置することで、泥棒に「この家は面倒だな」と思わせるのだ。

 考えてみてほしい。一つの鍵しかない家と、二つも三つも鍵がある家が並んでいたら、泥棒はどちらを選ぶだろうか。答えは明白だ。彼らは「入りやすく、逃げやすい家」を好む。わざわざ手間のかかる家を選ぶ理由はない。

 大切なのは、個々の鍵の性能ではなく「この家は手がかかる」「厄介だ」という印象を与えることだ。お勧めはシリンダー錠とデジタルキー(スマートキーとも)といった異なるタイプの鍵の組み合わせ。玄関ドアにデジタルキーを取り付ける費用は、設置費込みで数万円程度。一つの手口では対応できないと分かれば、泥棒は自然とその家を避ける。これは防犯対策の基本ともいえるだろう。

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