犯罪者に「狙われやすい家の共通点」とは 下見の際にチェックする“意外な箇所”

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 泥棒、強盗から身を守るためにどうすればいいか。元警察庁犯罪予防研究室長、清永賢二氏は著書『犯罪者はどこに目をつけているか』で、「忍(の)びの弥三郎」「猿(ましら)の義(ぎ)ちゃん」という二人の犯罪者の日記や、彼らへのインタビュー記録をもとに、一般市民が注意すべきポイントを解説している。後編の今回は、家のどこに彼らが着目して、侵入を決意するか、あるいは諦めるかといった点について見ていこう。

 短時間に「狙いやすい家」を見分け、侵入ルートを計算するその能力は驚異的だ。

(以下、『犯罪者はどこに目をつけているか』をもとに再構成) 【前後編の後編】

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 家は城である。住まう者を壁で物理的に被(おお)い、不審者の侵入を拒否する。そこで醸成される相互信頼感と愛情は、「家族の絆」という何よりも強靱な「心の障壁」を形成する。それが揺らぐと、外部からの侵入を容易にする。犯罪者、特に泥棒(以下、侵入盗)に焦点を絞り、彼らの視線と行動をふまえ、いかに家を守るかを考えよう。

犯罪者は段取りを考える

 どんな犯罪者でも、真剣にやる気があれば必ず段取りを考える。

 侵入盗は、狙った家に突然忍び込むようなことは絶対にしない。プロになると2回、多くて4回ほど下見をする。

「堅牢(けんろう)な建物であるが為に、侵入不可能と賊自身が判断したとしても、もしその建物の中に現金が著しく動いていると賊が感知したら、侵入するための手段と方法を練り上げ、その丈夫な施錠面の中、外界からの見られる率が最も少ない場所をかならず見出す。

 どんな家にも、かならず欠点の場所があるということを知らなければならない」(「忍びの弥三郎日記」)

 下見では、まずその家に金があるかないかを診(み)たてる。次に、家の外観だけから住んでいる人数、生活様式、嫁・姑や夫・妻・子どもなどの人間関係、家の間取り、貴重品の置き場、屋内に入り込むルートから逃走経路まで読み込んでいく。

「空巣を働く人間でも、その挙動がすこぶる敏捷(びんしょう)でその犯行時の服装も紳士的でその言葉する語調も真面目な人間としての表面を作る為、一般善良な市民の態と変わらない場合も多い訳だが、要点はその狙う家屋の周囲を1、2度必ず往復し始める。

 これはその家屋の住人の不在か在宅か、在宅であれば何人ほどか、老人か、子供か……といった諸々の行動に伴って、賊自身の利を判断させるものである。

 発覚した場合のことを考慮して、近隣の家並みを把握している賊もかなり居るし、突発時に備えて、賊自身は、それなりの弁解用語を備えているし、発言の動作も落ちついた総てに変化を家人や相手に覚られないような細やかなそぶりの芸を持つ賊もいる。

 侵入しようとして家人に発見されて強引に腕時計を見せて『安くしとくので買ってもらえないか』……といった幼稚な作り言葉ほどのことなら、必ずその人間の心中には疑いの念を抱くべきである」(同前)

 彼ら侵入盗は、こうした下見作業を「下絵を描く」「線を引く」と表現する。

 侵入盗は、家屋の外観の何に注目し、どれほど家の内部情報を読みとるのか。以下は、猿の義ちゃんが、ある家の回りを2周する間に読みとった箇所である。

(1)隣家との距離、(2)隣家の窓の位置、(3)塀の状態、(4)道路を挟んで向かいの家の窓の位置、(5)狙った家の前の道路の汚れ具合、(6)衛星TVアンテナの有無、(7)狙った家の2階の有無、(8)屋根周り、(9)小庇(こびさし)の幅・長さ・取り付け状態、(10)家の樋の位置、(11)郵便ポストの位置、(12)ゴミの量と入っているモノ、(13)警備会社のステッカー、(14)犬・防犯カメラ、(15)フラッシュライトの有無、(16)停めてある車の種類・台数と駐車場の位置、(17)屋根瓦の色と厚さ、(18)敷地に置かれた物とその利用法、(19)雑草の伸び具合、(20)塀あるいは生け垣の状態、(21)門柱、表札に書かれた名前、(22)煙突の位置と高さ、(23)庭木の位置と繁り具合、(24)芝生のすり減り状態、(25)干し物の順番と色、(26)建物自体の広さや古さ、(27)建物のペンキの色、(28)ベランダの位置と形状、(29)電気・ガスのメーター、(30)玄関・裏戸・窓の錠の状態、(31)裏戸の出入り口の汚れ、(32)およその間取り、(33)炊事場と風呂場の位置、(34)玄関とそこへのアプローチ、(35)窓の大きさ・窓枠の材料・位置・窓格子の種類、(36)部屋のカーテンの色や柄。

 これだけのものをちらと見ただけで覚え、その意味を読み、分析する作業をわずか2周、長くても5分程度で終えてしまう。プロの侵入盗の知能の高さが分かる。彼らの「頭の良さ」は生半可ではないのである。

 上の図のような家を見て、猿の義ちゃんは次のような線を引いて見せた。

「この家に侵入するには四つのルートがある。(1)の屋根に登ってAの窓を割る。この窓はおそらく居室か寝室の窓。(2)の樋を伝(つた)いBの窓から入る。この窓は階段の窓。同じくCの窓を破って入る。この窓は階段横の小部屋の窓。最後は(3)の小庇に立ってDの窓から入る。この侵入が一番やりやすい。電柱もある。もしDの窓が開いていれば(4)の隣家の出窓から飛び込む。我々プロは狙った家は確実にやる」

きれいは安全に直結する

 犯罪者は「法(のり)・規」にきわめて敏感に反応する。法とは刑罰法規を含む法律だけを言うのでなく、「秩序」「規範」「軛(くびき)」、やわらかく言えば「一定の決まりの下に整い、安定して均衡がとれていること」である。

 精神は形に、形は精神に反映する。物が秩序立っていることは、その社会や個人がそれなりに秩序だっていることを表す。だから犯罪者は、塀の落書き、散らかったゴミ、捨て置かれたような自転車を見て、その家の心の緩み(緊張の弛緩)、隙を読みとる。

「この町でやる」という品定めの決め手となるのも、駅前と町中の落書き、ゴミ(汚れて剥げかけたポスターは落書きやゴミに等しい)、放置自転車の三大汚れだという。屋根の連なり(スカイライン)が凸凹(でこぼこ)していないかどうかも、判断の要素になる。

 そして「この家をやる」という決定には、三大汚れに加えて、家の庭木の手入れの状態が大きく作用する、と犯罪者は言う。枝葉が繁り放題の庭木は視界を遮るばかりか、家人の心の荒(すさ)びと規範の崩れを体現している。きれいは安全に直結するのだ。

ロックは2重以上に

 昔から「ワンドア・ツーロック」(一つのドアに二つの錠)という。金言である。家屋にかぎらず、「一つだけの防御」は強固な意思を持った犯罪者には通用しない。

 1970年代、荒んでいたニューヨークのホテルでは、自室に入るのに三つの錠を開けなくてはならなかった。それが治安が回復して二つで済むようになった、と元ニューヨーク市長は誇らしげに筆者に語った(1998年当時)。

 最近は、2重ではなく3重の備えが必要とさえいわれる。これからは、ドアだけでなく、家の守りを担うあらゆる箇所で「ワンドア・スリーロック」の時代であることを強調しておきたい。

横手・裏手を固めよ

 犯罪者は、家の横手と裏手を特に入念に下見する。実際、横手に回った時の犯罪者の目は違う。「やるぞ」というギッとした目になる。

 彼らは言う。人間と同じで、顔は化粧で塗りたくっていても、後ろの髪は寝癖がついたまま、ということがある。人間は横や後ろに目がないから視線が行き届かず、スキが生じる。自衛するのが困難なのだ。

 人はどうしても自分の住まいを最大限広く取ろうとして、隣家との境界ぎりぎりに家を建ててしまいがちだ。しかし、これが危険なのである。隣家から簡単に自分の家に跳び移られることになるのだ。

 また、目障(めざわ)りな物、不要な物をとりあえず家の横手や裏手に積み重ねている家庭も多い。時には梯子(はしご)まで置いている。これも侵入にはもってこいだ。

 それだけではない。人間はどうしてもそうした不要物(時には必要になるが)、汚れた物から目をそらし、無視したくなる。そこに犯罪者がつけいる隙が生まれる。家の作りとその利用の仕方から生じる隙間を塞ぐのは、心がけ一つなのだ。

 家の守りの基本は、塀と家の壁に手をつけさせないこと。彼らが壁に手をつける前に手を打っておかなくてはならない。

入りを制して出を許さず

 侵入盗を含め犯罪者の「やる気」は、獲物に「近づきやすく」、どれだけ現場から「逃げやすい」かに力点が置かれる。

 侵入を寄せつけない(近づきにくい)と同時に、入った犯罪者をいかに逃がさないようにするか(逃げにくい)、その工夫が問われる。家をちょっと見ただけで、入ってもいいが出るのは許さない、という姿勢が見てとれるような演出が求められる。重い決意・決断を相手に要求するのだ。

 以前は家の玄関に貼られた「防犯協会員」や「猛犬注意」のプレート、最近は警備会社のシステムが導入されていることを示すステッカーがある。しかしこれらの類いは、ともすればお守り札程度の効果しかない。泥棒によっては、「警備会社のステッカーは、この家には警備が必要なほどのモノがある、と教えてくれる」と考える。

 心理的な工夫にとどまらず、目に見えて実効性のある「入りはあっても、出は許さず」という物理的な工夫が必要だ。

 例えば、イギリスの家屋では玄関の上の壁に大型ベル(ドラム)が設置してあり、泥棒が窓や屋内に張られたセンサーにひっかかると、けたたましい音を鳴らす。それを聞いた近隣みんなで追いかけ、捕まえるという仕組みである。設置と運営管理は電力会社が行っており、大きなドラムは嫌でも目にとまる。

 イギリスの侵入盗犯は、「ドラムは一番嫌だ。鳴らないようにするのでとにかく疲れる」と言っていた(英ハートフォード警察で、2000年)。日本の「スーパープロ」も、ドラムの仕組みを説明するとため息をついた。

「道路から見ただけで諦めるわ。だって、こんな大きな防犯ベルでけたたましい音を出された日には、隣近所ばかりか町中が追いかけて来るよ。たまったもんじゃない。先生、イギリス行って変なの見つけちゃいましたね」(猿の義ちゃん)

塀から3~5メートル前で判定

 侵入盗はどういう判断で、どう行動して獲物(被害家屋)に襲いかかるのか。

 侵入盗の8割は、塀(あるいは生け垣)に囲まれた家屋を、家屋の領域とは考えていない。彼らが侵入を決意するのは、狙い定めた家の塀際から最低3~5メートルの地点からだ。

 そして塀の落書き、周りに散乱したゴミ、放置状態の自転車など三大汚れ(前述)の他、落ち葉、敷地外にはみだした庭木などを見る。彼らの目には、これらすべてがゴミに等しく映る。その家と近隣との関係、場合によっては住人の人柄まで見ている。ゴミは「やりやすさ」の判定指標なのである。

 これに加えて、電信柱(今では登りにくいように工夫されているが)、ゴミ箱やビールケース、隣家の塀あるいは外階段、小庇や窓の位置、停められた車などが一定の条件を備えていれば、文句なしのターゲットと見なす。

 住人にとっての家屋の領域は、玄関前か、せいぜい家の周辺1メートルぐらいにとどまる。しかし、侵入盗にとっては3~5メートル。この差が住人の意識の隙(心の死角)を生み出すのだ。

 多くの場合、自分の家から1メートルと隣家からの1メートルでは重なり合わない空間が形成される。わが家の空間でも隣家の空間でもない曖昧な空間、これが責任をなすりつけ合う死角となる。近隣関係の大きな隙間は、犯罪者がつけいりやすい。

泥棒からの忠告

「忍びの弥三郎日記」に記された具体的な忠告を引用する。

「(1)家の周囲に次の物を放置してはならない

 脚立(きゃたつ)、梯子は勿論のこと、魚箱、酒専用の空箱、板硝子(ガラス)入れの空枠、果物専用箱、廃車となった自転車、廃材、廃品等々。脚立、梯子、自転車等はその物品の長短重量に応じて家屋の中に保管するなり、堅牢なロープ等で縛っておくこと。泥棒の脚継ぎ等にならないために。

 (2)家の周囲に次のような接近物がある場合の事犯防止の要点

 自家用車の駐車、広告灯、街灯、電柱、灌木(かんぼく)、喬木(きょうぼく)を始め、視界、外観を遮るような植木、塀がわりの樹木などなど。特に建物の横に街灯、電柱、植木、ブロック塀、樹木等が家屋から(1メートル未満内に)近いと泥棒は(特に身の軽い者だと)家屋やベランダにとびついて侵入する。

 これらのものが家屋の身近に接近していたら、接近しているその家屋は、一度は必ず(泥棒に)狙われると思わなければならない。一度は狙われる欠点はつきまとうが事犯を最小限度に食い止めることができる」

塀の効果は限定的

 犯罪者にとって塀は、家屋とそれ以外を区切る存在ではないと述べた。では塀は防犯に役立たないのだろうか。

 侵入盗の4割は「塀があると仕事に面倒」で、6割は「関係ない、あるいはあった方がよい」と答えている。

 面倒な理由は、塀の内外で家の境界が明示され、乗り越えた途端に泥棒と判断されること。素材が硬ければ打ち破って侵入できないこと。忍び入るのに体を持ち上げなくてはならず、体力を要することだ。

 その一方、最近よくある家の作りで、塀がなくて道路から窓へと直結しているような(それもクレセント錠が取り付けられている)家は、侵入盗全員が「いいねえ、やりやすい」という反応を示した。

 これに対して、塀は「関係ない、あった方がよい」という理由は、塀はプライバシーを守るために外部の視線を遮断し、塀の内側に侵入した者の存在をも消してしまうこと、いい足場になることが挙げられる。

 熟練の侵入盗は、人差し指と中指の2本が塀の上端に掛かれば、自分の体を持ち上げられる。つまり、高さ2メートル以下の塀では阻止効果は望めない。また塀の多くは15センチ以上の厚みがあり、彼らはその上を走って家の横手や裏手に回り込む。塀の上に立ち上がり、家屋2階の庇に手をかける、あるいは隣家の2階に入り込むこともできる。

 中途半端な塀はかえって犯罪を手助けしてしまうのである。

 ***

 防御を固めるには、攻撃側の目になってのチェックが重要ということだ。

【前編:空き巣に狙われている“前兆”とは 防犯のプロが教える「お金をかけずにできる防犯対策」】を読む

『犯罪者はどこに目をつけているか』(新潮選書)から一部を抜粋・再構成。

デイリー新潮編集部

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