「実はオートロック付きマンションが狙われる」 トクリュウ強盗の意外なウラ側 元留置場看守が“犯罪者目線”で解説
住人と出くわした窃盗犯の行動
読者には「住人の後についてエントランスを通過する」、警察用語で「共連れ」と呼ぶ手法を思い浮かべる方がいるかもしれない。だが、それで建物への侵入を図る窃盗犯は決して多くない。彼らは自分の顔を住人にさらすリスクを極力避けるからで、手口が悪用される可能性があるので詳細は明かせないが、彼らは手間をかけずに侵入が可能な、驚くほどスマートな手口を知っているのだ。
かつて、私は留置場に入って来たばかりの窃盗犯に尋ねたことがある。
「昼でも夜でも、仕事に行ったマンションで、住人と出くわすことはないんかい?」
彼の答えは明快だった。
「ありますよ。でも、その時は笑顔であいさつすればOKですわ!」
屈託なく犯歴を振り返る背景には、住人同士のコミュニケーションが希薄な現代の集合住宅事情がある。マンションやアパートに住む方なら心当たりがあるだろう。
面識がない人物でも、相手がオートロックで守られた建物内にいるだけで、無意識のうちに「誰かの来客か、知らない住人だろう」と自分を納得させる心理が働く。仮に愛想よくあいさつされたりすれば、それだけで「感じの良い人だな」という具合に、一気に警戒心を解いてしまうのが、一般的な人間の心理というものだ。
監視カメラの限界
ところで、私はこれまで「防犯カメラ」という呼称に強い違和感を抱いてきた。個人的には「監視カメラ」と言い換えて、世間に定着させるべきだと考えている。理由は、あちこちに設置されているカメラには限界があって、「防犯」、つまり「事前に犯罪を防ぐ」という使命を「すべての犯罪」を対象に果たすことはできないからだ。
私は泥棒被害に遭ったマンションからの依頼で、しばしば監視カメラの映像を確認する機会がある。そこに映るのは、カメラの存在を知りながら、堂々と侵入する泥棒の姿だ。確かに帽子やマスクで顔を隠してはいるが、カメラ自体をまったく意に介していない。
つまり、監視カメラは、泥棒の侵入を完璧に「防ぐ」ことはできていない。事後の捜査に録画映像は有効だが、それはあくまでも「事後」の話であり、「防犯」に役立っているわけではない。
身もふたもない言い方をしてしまったが、一定の効果がないわけではない。下着泥棒のような比較的軽微な犯罪には抑止力となり得るし、マンションであればエレベーター内部の映像を常に1階ロビーに流すことで痴漢を防ぐ効果も期待できる。さらには、ルールを守らない住民によるゴミの不法投棄防止にもなるだろう。
最も警戒すべきは「カメラがあるから安心」との思い込みだ。最近では一軒家でも設置する人が増えているが、その際は業者任せにせず、必ず防犯の専門家に相談してほしい。正しい理解と使い方があってこそ、カメラは真価を発揮するからだ。戸建ての軒先を映す屋外用なら、台数にもよるが設置費込みで10万円から30万円程度で、屋内用ならそれより割安で済むだろう。
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