「隼ジェット」はレトロモダンをイメージした 佐野元春が新作を徹底的に語る【インタビュー・前編】
古いファンにも新しいファンにも
『HAYABUSA JET 1』の内容は1980~1990年代の佐野を象徴する楽曲群から10曲をセレクトし、結成20年を迎えたTHE COYOTE BANDでリ・レコーディングしている。「Youngbloods」「ジュジュ」「虹を追いかけて」「約束の橋」などがライヴのような迫力で展開する。リズムがはっきりしていて演奏に気持ちのいい間があるので、佐野の歌、言葉がはっきりと伝わってくる。
「新しい世代にバトンを渡せるようにと思って自分の曲を再定義しました。古いファンにも新しいファンにも楽しんでほしい」
佐野は“再定義”という言葉を使ったが、リ・アレンジし、曲によっては歌詞を変えたり、リ・タイトルしたり、今のリスナーの気持ちに響く言葉とサウンドが展開している。全10曲で約41分。今の時代にしては短いサイズでもあり、アルバム全体がまるごと1曲のようにグルーブを生む。
曲順へのこだわり
「このアルバムは1曲目の『Youngbloods』からラストの『約束の橋』まで通して一気に聴いてほしい。歌詞やメロディと同じように、曲順も大事だ。そこにはメソッドがある。1曲目はアップテンポ。2曲目は、1曲目に近いテンポの曲。3曲目は、スローな曲、といったフローだ。アルバムの曲順もこのフローで組むことが多い」
メソッドは、ラジオ番組をやってきた体験から得た。
「参考にしたのはアメリカのDJたちが書いた本。自分なりに学んで自分の番組で試した」
「ダウンタウンボーイ」が「街の少年」に
佐野は画家のように、ロックのリズムで街の風景をスケッチしていく。詩人のように、街を描写する。そんな佐野が、“佐野元春メソッド”では「リリックをしっかり聴いてほしい」という『HAYABUSA JET 1』の5曲目に持ってきたのは「街の少年」。1981年リリース のシングル・ナンバー「ダウンタウンボーイ」のリ・タイトルだ(アルバム『SOMEDAY』にも収録)。マーヴィン・ゲイのソウル・ミュージック、本物のよりきれいなウソ、深夜の映画館にたたずむ少年……。都会の夜をスリリングに、しかも切なく描いていく。音楽で景色をせ、夜の匂いがある。
「キャリア初期につくった曲です。映像的で、ソングライターとしての僕の特徴がよく現れています。リリックは私小説のような表現でなく、目の前のリアルな風景をスケッチすることが多い。リスナーにはそこに物語を感じてくれたらうれしい」
ロックの歌詞も、小説と同じように、書かれていない、歌われていない“行間”を感じ取るものだということなのだろうか。
「そうかもしれません。音楽には、言葉だけでなく、ビートがあり、メロディがあり、ハーモニーがある。そのすべてが一体化してリスナーにぶつかっていきます。ソングライターとしてそこを意識しています。そのようにして書いたのが、20代のころに見た東京の風景を唄った『街の少年』であり『ジュジュ』です」
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