「サザン」10年ぶり新アルバムでも“猪木愛”は不変！ 「桑田佳祐」の深すぎるプロレスファンぶりを振り返る
3月19日にサザンオールスターズ（以下、サザン）の10年ぶりの新アルバム「THANK YOU SO MUCH」が発売された。その12曲目に、以下のタイトルの曲がある。
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「ミツコとカンジ」
聴いてみると、ミツコという女性との別れを出だしに、それでも自分の夢を追いかけ、身体が傷つくことをものともせず闘い続けた男が、しかし、今でも残る心の方の傷に思いを馳せるといった内容だった。明らかに女優、倍賞美津子とその元夫、アントニオ猪木（猪木寛至）をモチーフにしたと思しき歌詞である。
2022年10月1日（土）の猪木の訃報にあたり、その夜、サザンのフロントマン・桑田佳祐（69）は、自身のラジオ番組「桑田佳祐のやさしい夜遊び」（TOKYO FM）の出だしで、こう挨拶している。
「土曜の夜の『燃える闘魂』、桑田“猪木さんがいたから元気になれた”佳祐でございます……」
バックには猪木の入場テーマ曲「炎のファイター」が流れていた。
今年でデビュー47周年を迎えるサザンとプロレスの、知られざる関係にスポットを当てたい（文中敬称略）。
プロレスラーのサザン愛
サザンと言えば国民的バンドなだけに、プロレスラーにもファンは多い。代表的なのは小川直也だ。桑田佳祐の生地である茅ヶ崎に在住している縁で、同地での記念ライブ（2000年8月）には、開演を告げる聖火ランナーとして参加。テレビで美声を披露する場合も歌うのはサザンの曲で、「TSUNAMI」はもちろん、日本テレビ「THE夜もヒッパレ」では桑田佳祐ソロ名義の「波乗りジョニー」「白い恋人たち」をそれぞれ村上和成、橋本真也とデュエットしている（放送はそれぞれ2001年7月14日、同11月24日）。
あの長州力も大のサザン好きで、2008年8月、活動休止にあたっての日産スタジアムのライブを観に行ったという。こちらは4日間の日程のうち、晴れたのが1日だけであり、長州が行った日も大雨だったとか。とはいえズブ濡れになりながらも十分楽しんだようだ（なお、かなり後方の席だった）。因みに長州のカラオケでのほぼ唯一のレパートリーが、これまた桑田佳祐ソロ曲の「月」というから何とも渋い。
現役選手で大ファンとして有名なのが4代目タイガーマスク（新日本プロレス）。実は尊敬する桑田と、新幹線で一緒になったことがあるというが、話しかけることができなかった。
「マスクを脱いで素顔でいましたので。だから、『どうも、4代目タイガーマスクです』と言っても信じて貰えないでしょうし……」
“マスクマンあるある”の悲哀を感じさせるが、そんなタイガーが、さらに悔しさを滲ませたのが2019年のライブでの出来事。本人は未参加だったが、バックダンサーがタイガーマスクの出で立ちで登場したと、後から聞いたという。「『なんで呼んでくれないんだ！』って思いました（笑）」とは、まさにタイガーマスク本人の談である。
サザンの曲とプロレスと言えば、「旅姿六人衆」が有名だ。1988年8月8日におこなわれたIWGPヘビー級選手権、王者・藤波辰巳（現・辰爾）vs挑戦者・アントニオ猪木の60分時間切れ引き分け試合の終了後、サザンの名バラードである同曲が流れたのである（「ワールドプロレスリング」1988年8月13日放送分）。出だしの「毎日違う顔に出会う。街から街へと」の歌詞になぞらえ、新日本プロレスの当時の巡業風景が流れるという珠玉の出来だった。この「旅姿六人衆」、実は新日道場の鬼軍曹として知られた山本小鉄の訃報直後の後楽園ホール大会終了時にも、小鉄の在りし日の映像とともに会場で流されている（2010年9月3日）。前出の藤波vs猪木が、昭和最後の名勝負と言っていい至高の内容だったこともあり、どことなく昭和プロレスの輝きをリプライズさせる名曲という趣も今では付与されている。
ところで小川直也選手の取材にあたり、筆者がサザンの、主にアルバムに入っていないレア曲群をMDにダビングしてプレゼントしたことがあった。その曲目を見た小川選手が目を細めて、こう言った。
「おっ！『ゆけ！！力道山』も入ってるじゃないですか～！」
「ゆけ！！力道山」とは、サザンの34枚目のシングル、「クリスマス・ラブ（涙のあとには白い雪が降る）」のカップリング曲で、オリジナルアルバムには未収録の佳品だが、歌詞に出て来る人名がまさに多士済々なのである。
ルー・テーズ、パット・オコーナー、ディック・ザ・ブルーザー、アンドレ、そして、沖識名……。昭和の名レスラーやレフェリーの名がふんだんに並ぶのだ。
そう、桑田佳祐の方こそ、大のプロレスファンだったのである。
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