「サザン」10年ぶり新アルバムでも“猪木愛”は不変! 「桑田佳祐」の深すぎるプロレスファンぶりを振り返る

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ハンパないプロレス愛

 1989年に行われた、桑田佳祐と前田日明の対談を紹介したい。酒席でロックグラスを頭で割り、その破片が後頭部に残っていたことを前田が語ると、桑田はこう答えている。

〈うわーっ。ニールセンのキックだけが、前田さんの脳に衝撃をあたえてたわけじゃないんだ〉

 さらに、シュートめいた試合として放送禁止になった1986年4月の前田vsアンドレ・ザ・ジャイアントについて話が及ぶと、

〈放映はできなくなっちゃったんでしょ、オクラ入りで。オレ、あれの裏ビデオ持ってるんだよ〉(いずれも「週刊プレイボーイ」1989年2月7日号より)。

 前田がドン・中矢・ニールセンとの異種格闘技戦で脳を腫らしたこと(正式な病名は硬膜嚢胞)を熟知していたり、地方局の一部で流れたアンドレ戦の映像を、試合から3年経たずに入手していたりなど、もう立派なマニアである。

 プロレス愛がステージングやMVにもふんだんに活かされている。1991年大晦日の年越しライブには、現・石川県知事の馳浩が登場。蝶野正洋が差し向けたという設定の敵(※正体は新日本プロレスの若手選手)を、花道で次々と倒す趣向の演出がおこなわれた。また蝶野は、後にサザンの43枚目のシングルのMVにも、AKIRA(野上彰)と出演している。

 1995年8月の横浜のLIVEでは、幕開けに全身星条旗のマスクマンが登場。他のメンバー5人(当時)が既に登壇済みだったため、これが桑田かと思いきや、頭巾型のマスクを取ると中身は西城秀樹で、そのまま「ヤングマン」を熱唱するのだが、その演出に際し、桑田は西城に、こう頼んだという。

「グレート・ムタみたいな感じで、正体がわからない感じで出て来て欲しいんですよ」

 桑田自身、2002年9月22日に行われた日比谷野外音楽堂での音楽イベントに事前告知では覆面歌手「ミスターX」として参加。当日は真っ赤なマスクを脱いで素顔を露わにし、観客の度肝を抜いている(共演は奥田民生、元ちとせ等)。

 1999年3月のライブでは2ヵ月前に急逝したジャイアント馬場のチョップのポーズを真似して、「馬場さん亡き後も、頑張るしかない」とMC。2000年10月におこなわれた「PRIDE.11」ではリングに登場し、メインを務める小川直也に、「PRIDEの歌~茅ヶ崎はありがとう~」というオリジナル曲を生歌でプレゼントしている。副題には前述の茅ヶ崎のライブで小川が聖火ランナーを務めてくれたことの感謝が込められていた。

桑田が一番好きなプロレスラーは?

 では、桑田佳祐が一番好きなプロレスラーは、誰なのか? それは自著において、明確に語っている。

〈アタシにとってのプロレスとは!? それはもう、アントニオ猪木こそが「プロレス」であり、プロレスとは「アントニオ猪木」の人生、人間そのもの〉

〈猪木は、この世に唯一無二の存在であり、アタシの人生の大師匠〉(『ポップス歌手の耐えられない軽さ』より)

 ライブで「1、2、3、ダー!」を繰り返すのはもちろん、センターステージへの移動に「炎のファイター」をかけたり、猪木を模した着ぐるみ人形を登場させたりしたことも(それぞれ2011年9月、2018年11~12月)。テレビ番組でMr.Childrenの桜井和寿とカラオケ対決をした際は、桜井を、「やる前に負けること考えるバカいるかよ!」と挑発。これはそのまま、猪木の名言である(フジテレビ「桑田佳祐の音楽寅さん」2001年3月放送分)。

 桑田と猪木が初めて対面したのは、1982年12月30日放送の音楽番組「ザ・ベストテン」(TBS)内だった。年間ランキングに顔を出したサザンオールスターズに、桑田佳祐の会いたい人として猪木が登場したのだ。その後、ラジオでの対談や、忙しい合間を縫っての、会場での観覧(1987年8月の「サマーナイトフィーバーIN国技館」など)、はたまたMV(38thシングル「太陽は罪な奴」)での共演など、親交を深めて来た。2010年、桑田の食道ガン発覚時には、猪木から公式にコメントを送っている。

「“燃える闘魂”猪木イズムで元気になってまだまだ歌い続けてください。いつか、(※桑田の行きつけの)下田のそば屋さんでお会いできることを楽しみにしております」

 先に引用した著書で桑田は、モハメッド・アリ戦、タイガー・ジェット・シンとの(新宿での路上蹴撃を含めた)抗争、倍賞美津子との結婚、ビートたけし率いるプロレス軍団の迎撃、国会議員時代のイラクでの人質救出など、世間を巻き込んだ猪木の行動についても触れ、〈紆余曲折と荒唐無稽を繰り返しながらも、猪木の闘いは続いた〉としているが、果たして、桑田が思う、猪木の魅力とは? その一端について、桑田は冒頭のラジオで、次のように語っている。

「猪木イズム、闘魂イズム。やってみなきゃ人生わからないよ、っていうね」……。

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