あの「エマニエル夫人」も…年末年始にじっくり観たい「大人の映画」7選
「裁かるゝジャンヌ」(カール・テオドア・ドライヤー監督/1928年、フランス)
シネコンのような大劇場は年中無休だが、ほとんどのミニシアターは大晦日や元日は休館する。ところが、まったく休まないどころか、“アート・フィルム”で年を越す驚くべき映画館もある。渋谷のシアター・イメージフォーラムだ。デンマークの映像作家カール・テオドル・ドライヤー(1889~1968)の特集上映である。
「おそらく、映画史に詳しいひとでないと、ドライヤーの名は知らないでしょう。サイレント時代から1960年代まで、79年の生涯で14作の長編を発表している、孤高の映像作家です。作品ごとにタッチを変えるのですが、多くは、社会的な抑圧や不幸に立ち向かう女性の姿を力強く描いており、後世の映画人に多大な影響を与えました。蓮實重彦さんに至っては『彼のすべての作品を見ていなければ、映画について語る資格はないと断言したい』とまで述べています」
今回は、代表作「奇跡」や「怒りの日」、遺作「ゲアトルーズ」といった名作を含む、全7作品が上映される。
「それらもよいのですが、年末年始に観るのであれば、『裁かるゝジャンヌ』(1928年)がお薦めです。ジャン=リュック・ゴダール監督の『女と男のいる鋪道』(1962年)で、アンナ・カリーナが場末の映画館で泣きながら観ていた、あの映画です。いうまでもなく、百年戦争のヒロイン、ジャンヌ・ダルクの物語ですが、いわゆる“戦争映画”ではありません。ジャンヌが逮捕され、異端審問にかけられ、火刑に処されるまでを、ドキュメント風に再現した、衝撃作品です」
しかし、いくら映画史に残る名作とはいえ、1928(昭和3)年のサイレント映画である。画面や音質は、どうなのだろうか。
「この作品は、倉庫の火災や散逸で、1981年にフィルムが発見されるまで、完全な形で上映されませんでした。今回は、フランス国立映画映像センターとゴーモン社によって2015年にデジタル修復された美麗な映像に、作曲家・オルガニストのカロル・モサコウスキが、リヨンのコンサートホール〈Auditorium〉で演奏・録音した最新音楽が付いています」
劇中、異端審問裁判のシーンは、古文書の裁判記録をもとに正確に再現されたといわれている。役者もセリフ(字幕)を忠実に口にしている様子がわかる。
「その裁判の巧妙な進め方が現代的で、かえって新鮮な衝撃をおぼえます。また、ジャンヌが泣きながら頭髪を刈り取られるシーンには、目を覆いたくなります。ここは、現場のスタッフたちも涙を流しながら撮影に臨んだといわれています。迫害されるジャンヌの姿が、いつしか世のすべての女性への抑圧を代弁しているように感じられて、絶大な感動に襲われるでしょう。年末年始の休みで腑抜けになった脳髄に、強烈なパンチを与えてくれる刺激的な映画です」
女性抑圧からの解放――といえば、最後に、この映画がとどめを刺す。
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