個々人、会社同士が連携する「知的資本カンパニー」へ――高橋誉則(カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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 TSUTAYAフランチャイズチェーンを一代で作り上げたカリスマ経営者よりバトンを渡された新社長は、事業改革を進める一方、組織や働き方を大きく変えつつある。なんと現在、執行役員全員が業務委託なのだという。これにどんなメリットがあるのか。そして会社にはどんな効果をもたらしているのか。

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佐藤 カリスマ創業者として知られた増田宗昭氏から、今年4月に社長を引き継がれました。

高橋 代表権のある副社長になった2022年4月以降、社内においては実質的に私が経営の舵取りをしてきましたから、何かが大きく変わったわけではありません。

佐藤 TSUTAYAのフランチャイズチェーンを作り上げた増田氏は、非常に発信力のある起業家です。どんな方ですか。

高橋 夢追い人であると同時に、ビジネスではかなりディテールにこだわる。ビジョナリーなんだけども、細部までこだわられる感じですね。その大きな振れ幅があったから、こうした会社ができたのだと思います。

佐藤 社長交代はどんなタイミングだったのですか。

高橋 ことの発端は、2021年の暮れに増田から呼ばれ、「社内の状況を調べてレポートを書いてくれないか」と言われたことです。TSUTAYAも、Tポイント事業も厳しい環境でしたので、その2、3カ月前から何かが起きそうな予感はしていました。

佐藤 当時、高橋さんはどんな立場だったのですか。

高橋 カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)傘下の書籍の仕入れ改革を行うためのデータ会社で社長を務めていました。そうした子会社も含め、グループ内の全事業を精査し、レポートを出したんですね。そうしたら今度は「これにはアンサーレポートがいるな」と言われた。それで年の瀬で多忙だったのですが、なんとか提出しました。そこにはかなり厳しいことも書きました。

佐藤 今度は改革案を作ったわけですね。

高橋 そうです。そしてその翌日、増田の家に呼ばれて「来年の4月から自分も含めて現経営陣は引くから、COOとして会社を立て直してくれ」と言われたんです。

佐藤 どう返事されたのですか。

高橋 「わかりました。僕でいいかはわかりませんが、お受けします」と答えました。ただ「会社を変えるには代表権が必要です」と、条件をつけた。そこから3カ月間さまざまな議論をし、最終的に増田は社長のまま、私が代表権のある副社長に就くことになりました。会社には内部の立て直しだけでなく、対外的なやりとりもありますから、そこは増田にやってもらい、まずは社内のことに専念できる体制にしてもらった。それで1年やったところで、今度は私から社長をやりますと提案しました。

佐藤 増田氏は現在、会長ですね。

高橋 代表取締役会長で、大株主です。ただ会社のことは全面的に任せてもらっていますし、私もいっさい忖度しません。

佐藤 CCCは、日本の街の風景を変えてきました。レンタル文化を定着させる一方、ブック&カフェといった新しい店舗を次々と生み出してきた。ただ、その事業環境はいま、大きく変わっています。

高橋 映像も音楽も、もうレンタルではなく、配信という形でライフスタイルに組み込まれています。ですから、私たちは書店を核にした事業に舵を切っています。ただ後発の書店ですから、老舗書店と同じやり方では勝負できない。私たちは本だけでなく、本+αの場所作りをして、書店を再構築していきます。

佐藤 CCCが始めたブック&カフェという形態は画期的でした。また、数々の講演や講座、教室などのイベントも企画され、文化拠点にされていますね。

高橋 スターバックスコーヒーとシームレスに売り場をつなげたブック&カフェは六本木の店舗が最初で、今年ちょうど20年になります。カフェに購入前の雑誌も書籍も持ち込めて、買っても買わなくてもいいというスタイルを初めて書店に取り入れた。もっとも最初は、タダ読みされて帰られてしまうだろうと、ものすごくたたかれましたね。

佐藤 でも、そうではなかった。

高橋 そこで読み始めて愛着の湧いた本は、みなさん、買って帰られるんですよね。しかも丁寧に本を扱ってくださることもわかった。

佐藤 人の心理は、面白いですよね。私が見た時は、10冊ほどカフェに持ってきて、うち2冊を買っていく人が多かったです。

高橋 ブック&カフェを作ってみて、初めてそうした行動を取ることがわかった。私どもとしては、そういう発見を大事にしていきたいですね。

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