個々人、会社同士が連携する「知的資本カンパニー」へ――高橋誉則(カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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業務委託という働き方

佐藤 高橋さんは一時期、自身の会社を設立して、CCCと業務委託の関係だったそうですね。これも一つのパートナーシップといえます。

高橋 2018年4月から2021年3月までの3年間は、「主夫」だったんですね。その時に個人会社を設立し、CCCとは形式上、顧問契約という形にしました。まあ、ほとんど仕事はしていなかったのですが。

佐藤 どうしてそうした選択をされたのですか。

高橋 私には1男1女がいて、娘がダウン症なんです。明るく笑顔が素敵な子で、私も妻も幸せをもらっていますが、親が社会とのハブにならないと、育てていけない部分がある。ちょうど主夫をやった3年間は、娘が就学する時期でした。

佐藤 ああ、その時期が一番大変かもしれません。義務教育になれば、そこからいろいろな支援が受けられますから。

高橋 支援も縦割りになっていますので、就学するとまた違う流れになります。私たち夫婦は障害のある子供が生まれた時、まず将来のための資産形成を考えました。兄であるもう一人の子供に負担をかけたくありませんから、私たちがいなくなった後でも社会保障だけに頼らない、まとまった資産を確保しようと決めた。

佐藤 具体的にどうされたのですか。

高橋 妻が勤めながら会社を立ち上げ、資産ゼロから全額借り入れを行って事業をしてきました。それを見てきたので、私も個人会社を作って、仕事を受け、報酬をその会社に蓄積することにしたんですよ。将来、娘が働ける場所を作る必要が出てくるかもしれないですから。やはり就労や自立となると、行政の支援だけでは乗り切れないところがあります。だから親がしっかり準備しておかないといけないと思ったんです。

佐藤 会社を作れば、時間はかなり自由になりますね。

高橋 私の愛読書に、アメリカのゴア元副大統領のスピーチライターだったダニエル・ピンクの『フリーエージェント社会の到来』という本があります。著者自身、フリーエージェントを実践していますが、私はこうした働き方が当たり前になるだろうと思っていましたし、自分もそうしたいと昔から考えていたんですよ。

佐藤 多くの企業で兼業や副業も認められています。フリーエージェントへの流れがあることは確かですね。

高橋 私は人事部長も務めましたが、雇用のスタイルは個人のニーズに合わせて変えていいと思っています。正社員、契約社員、業務委託それぞれが選べる形が望ましい。実は、いま弊社の4人の執行役員は全員業務委託なんですよ。

佐藤 へぇー、それは高橋さんが勧めたのですか。

高橋 一人は自分で会社を経営していた人をヘッドハンティングしてきたので、社員にならなくてもいい、とお伝えしたんですね。他のメンバーにも、選択肢の一つとして、ある程度年収が担保できるのなら、法人を作って業務委託にしたほうが自由度は上がるし、また勉強になる、とけしかけました(笑)。

佐藤 会社の構成に大きな影響を及ぼしたことになる。

高橋 外の仕事もどんどん受けていいと言っています。CCCの中で会議ばかりしていても、問題の答えは見つかりません。会社の外に出て仕事をすれば、会社の価値もわかりますし、課題も客観視できて解決策も見えてくる。いいことずくめです。そもそも個人会社を作り、税理士と一緒にどう決算を迎えるかを考えることは、会社経営そのものです。私はサラリーマンの集合体より個人事業主の集合体で経営した方が、はるかに会社はよくなると思っています。

佐藤 高橋さんはいつまで業務委託の状態だったのですか。

高橋 CCCに復帰して1年間は業務委託でしたが、代表権のある副社長になると制度上の問題があり、その後は普通の委任契約になっています。

佐藤 一般社員でも業務委託の人はいるのですか。

高橋 まだ少ないですが、いますね。強制することではないので、自分の生き方のスタイルに合わせて決めればいい。ともかく働き方において、自由度を上げていきたいんですよ。

佐藤 これは人材の流動化につながります。育てた社員がどんどん独立したり転職したりすると、会社として困りませんか。

高橋 ほとんどの企業がそこに頭を悩ましていますよね。ただ大量採用して一緒に訓練し同時に送り出すという仕組みはもう壊れてしまっています。ですからそれを維持すること自体ナンセンスだと思っているんです。基本的にこれからは自分自身でアップデートしていくという意識がないとダメです。

佐藤 外務省は語学研修に年間1人当たり3千万円くらいかけています。それがあったから私は現在も食べていけるのですが、なかなか民間でそういうことはできない。

高橋 そうですね。例えば、新入社員を一社で囲い込んで教育するのではなくて、思いを同じくする数社共同でパスをしながら修業させることができたらいいかもしれない。

佐藤 それは面白そうです。

高橋 IT会社と製造など実業の会社を5、6年の間に複数経験できるとなると、強いビジネスマンが育つかもしれません。

佐藤 高橋さんの発想は、常に横のつながりやパートナーシップが核にありますね。

高橋 個人が何かの組織に属していることに意味があるのではなく、その人がどう生きるかに意味があると考えています。そしてその一個人や一法人が連携しながら、私どもの持っている顧客や、データ、信用やインフラ、ノウハウといった「知的資本」を組み合わせて、新しい価値を作り出していくことが私の理想です。

佐藤 基本になるのは個人と情報ということで、インテリジェンスの世界に通じるものがあります。

高橋 増田は「世界一の企画会社」という言い方をしていましたが、これはちょっとイメージしづらいところがある。私はいま、社内では「知的資本カンパニー」を目指そうと言っています。より個人に軸を寄せて、それぞれが連携することで化学反応を起こしていく。また会社の事業としても、他の会社とパートナーシップを築きながら新しい試みを実践していく。こうした掛け算の中で会社を成長させていければ、と思っています。

高橋誉則(たかはしやすのり) カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役社長
1973年東京都生まれ。大東文化大学卒。97年カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)入社。TSUTAYA常務取締役、傘下のカタリスト・データ・パートナーズ社長などを経て、22年CCC副社長兼COO、23年より代表取締役社長兼COO兼CHRO。

週刊新潮 2023年12月14日号掲載

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