「夏に車中泊ができる人にはかなわない」 彼らのダイナミック過ぎるマインドを聞いてみると(中川淳一郎)

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「車中泊」って皆さんやったことありますか? 東京を脱出したこの3年間、佐賀県唐津市に住んでいると全国からいろいろな人がやってくるのですが、その中の5%ほどが車中泊の方々なんですよ。要するに自分で車を運転してきて、ホテルを予約することなく駐車場に止めた車の中で寝てしまうのです。

 さすがに女性一人というのはなく男性一人か、車中泊キャンプが趣味の夫婦なのですが、冬の寒さは厚着と寝袋でなんとかなるものの、夏の暑い中、よくもそんなことできるよな、と思います。さすがに就寝中の6~7時間、エンジンをふかし続けてエアコンをつけるのは騒音やガソリン使用量の面やらバッテリーが上がってしまうのでは、などと考えると簡単なことではない。

 私は大学時代登山部に入っていたため、4人で狭いテントに泊まることはできますが、山上のテント場は夏であろうと涼しいし蚊もいないので、快適なんですよ。しかし、標高数メートルの場所で熱帯夜に車中泊するってのは、耐えられる気がしない。

 それをやると言う男に「大丈夫なんですか?」と聞いたら「蚊取り線香を、開けた窓際に置くので大丈夫」と言う。

 昔から「この人にはかなわねぇ~」と思うタイプの人々はいたのですが、夏に車中泊できる人にはかなう気がしません。車があるから、銭湯やら日帰り温泉に行くことはできるでしょう。しかし、酔っ払いたちが「おぉ、ここでのんきに寝てるヤツがおる」「サイフ盗んじまおうぜ」なんて共謀してきたらひとたまりもない。警察官から職務質問され、署に連行される恐れもある。

 私のような凡人はそうしたリスクを回避するために6千~9千円ほどのビジネスホテルを予約することになるのですが、彼らのマインドは「車中泊の方が楽しい」「その6千~9千円があれば、よりおいしいメシが食える」となるわけです。

 ちょっと人種が違うというか、ダイナミックさが違う方々が「車中泊」をするんですよね。今年7月に来たイケメンは、40代前半にして、一生分のカネを稼ぎ、中部地方で古民家を何軒か購入し、民泊を経営しています。自分はいろいろと旅行に行きたいものだから、そこに長期滞在するフィンランド人の夫婦に民泊の客の対応をさせる。おいおい、その夫婦がカネ持って逃げたらどうするんだよ! そんな心配はなんのその。

 そして本稿を書いている11月27日17時34分ですが、19時に三重県から来る車中泊男を待っている状況です。この男、3週間前の唐津の音楽フェスの際に「中川さんですか! 今度じっくり飲みましょうよ!」と言ってきて、その後26日に電話をかけてきました。

「明日、飲めますか!?」だと。おいおい、普通「明日」って無理だろうよ……とは思うものの、私はたまたま何も予定がないためOKしました。そして、結局同氏は私の借りている駐車場に車を停め、車中泊をすることになったのです。

 フェスで会っただけの男のために約800kmをドライブして車中泊する御仁って一体なんじゃ? 本当にすごいヤツが世の中にはいるものです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年12月14日号掲載

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