「太ももの肉ごと持っていかれそうに」「一か八か喉元にナイフを」 人食いヒグマを撃退した消防隊員の壮絶な独白

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 牛を次々と襲った「OSO18」。さらに市街地に出没する「アーバンベア」なる言葉まで流行語に選ばれ、今年の日本列島は“クマ予報”が必要なほどクマの目撃談で溢れている。10月31日、北海道の福島町で登山をしていた男性3人グループがクマに襲われ、2人が負傷。彼らが語った衝撃の“激闘”とは――。

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 ヒグマは雄の成獣で体長2メートルに達し、体重が400キロになる個体もいる。北海道に生息する国内最大最強の陸上動物であり、その膂力(りょりょく)は人類をはるかに凌駕する。

 吉村昭の小説『羆嵐(くまあらし)』の題材にもなった三毛別(さんけべつ)ヒグマ事件は、約100年前、北海道・苫前(とままえ)村三毛別(現在の苫前町三渓〈さんけい〉)の集落で起きた惨劇だ。1頭のヒグマが女性と子供ら7人を殺害し、3人に重傷を負わせた凶事であり、ヒグマの底知れぬ恐怖を今なお現代に伝えている。

 道内の登山者が最も警戒すべき生物でもある。しかし10月31日午前10時半ごろ、北海道南部・渡島(おしま)管内福島町の大千軒(だいせんげん)岳の山中で男性が対峙したのは、そのヒグマにほかならなかった。

 突如、背後から現れたどう猛な野獣。それは低いうなり声を上げながら男性の同僚を組み伏せて、まさにその命を奪わんとしている。男性は仲間を救うために意を決する。ナイフを握りしめると、猛り狂う相手の目に狙いを定めた――。

ピストルを発砲しながら登山

 その3時間前。澄み渡る秋晴れの空の下、地元消防署員の大原巧海(たくみ)さん(41)と同僚の船板克志さん(41)、それに後輩(36)の3名の姿は大千軒岳の登山口にあった。彼らの誰もが、これから生命の危機に遭遇するとまでは思ってもみなかったに違いない。

 もっとも、その時の彼らには知る由もなかったが、北海道大学4年生の屋名池奏人(やないけかなと)さん(22)が同月29日から、大千軒岳の登山中、消息を絶っていたのである。

「人が亡くなっていますので、あまり喋るべきではない話ですが……」

 そう躊躇(ためら)いながらも、当事者の一人である船板さんが経緯を語ってくれた。

「登山者や山菜採りの方々が遭難すると、われわれ消防隊員に応援要請があって捜索に入る場合があるんです。だから万が一に備えて、どんな山なのか知っておこうと思い、その日に登ったわけです。服装は全員、一般的な登山服で5キロ前後のリュックを背負っていたと思います」(同)

 各自、クマ除けの鈴を装備。要所では笛を鳴らしながら登って行ったうえ、火薬で音が鳴るピストルも2丁用意。時おり発砲しながら、歩を進めたという。

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